企業や農家など、モノを作る生産者は「高い製品をたくさん作って売りたい」と考えますし、私たち消費者は「なるべく安い製品を買いたい」と考えますよね。
このように、生産者と消費者の間で希望する製品価格のギャップがあるものの、マーケットでは適正な価格で取引されています。
これは市場メカニズムがうまく働いているためです。
そして、このメカニズムを分かりやすく説明してくれるのが「需要曲線・供給曲線」です。
ただ、経済学の序盤に登場する「需要曲線・供給曲線」はグラフを使って説明され、さらに曲線の移動や傾きなど数学っぽさが登場する分野なので、“苦手意識を持っている人”や“よく分からないという人”も多いかもしれません。
今回は経済学を学ぶうえで欠かせない「需要曲線・供給曲線」について紹介していきます!
「需要曲線・供給曲線」で何がわかる?
需要曲線・供給曲線とは?
「需要曲線・供給曲線」を理解することで、モノやサービスの「価格決定の仕組み」を理解することができます。
この「需要曲線・供給曲線」は
- 生産者(供給)・・・価格が高い製品ほどたくさん作って売りたい
- 消費者(需要)・・・価格が安い製品を買いたい
という考えと「完全競争市場」であることが前提となっています。
まずは、この関係性についてのグラフを見てみましょう!

このように、右上がりの曲線が供給曲線、右下がりの曲線が需要曲線となっています。
例を使って確認しましょう!
ある町のお菓子屋さんは「高いケーキをたくさん作って利益を上げたい」と考えて1個1,000円で販売したとします。

それに対して、消費者は「ケーキ1個に1,000円は出せない」と考え、購入する人はほとんどいないので売れ残ってしまいます。
その結果、お菓子屋さんはお客さんに買ってもらえる価格までケーキの値段を下げます。
反対に、お菓子屋さんがケーキを1個100円で販売した場合、消費者は「1個100円なら欲しい」と、普段あまりお菓子を買わない人まで購入したいとお店に殺到するので、お菓子屋さんはケーキの値段を上げます。

こうして、「生産者が売りたい価格=消費者が買いたい価格」になるように価格が変動し、需要曲線・供給曲線が交わる点「均衡点」で価格が止まります。(均衡点の価格=均衡価格)

今回は需要曲線と供給曲線が交わっている均衡点が450円なので、ケーキの価格は450円で安定します。
超過需要・超過供給について
先ほどのように、需要と供給のバランスが悪くてもだんだんと均衡価格に落ち着いていきますが、いきなりこの価格に決まるわけではありません。
先ほどのケーキを使って確認してみましょう。

もし、町のお菓子屋さんがケーキ1個を600円で販売した場合、ケーキの供給量に対して「ケーキを買いたい」と思うお客さんの数は少なくなります。(需要<供給)
このように「需要<供給」となっている状況を「超過供給」といいます。
超過供給の場合、お菓子屋さんはケーキが売れる価格まで値段を下げ、均衡価格に落ち着きます。
反対に、お菓子屋さんがケーキ1個を300円で販売した場合、ケーキの供給量に対して「ケーキを買いたい」というお客さんの数が多くなります。(需要>供給)

このように「需要>供給」となっている状況を「超過需要」といいます。
超過需要の場合、お菓子屋さんが値上げをしてもお客さんはケーキを買い求めるので均衡価格まで値段が上がります。
以上のように、完全競争市場においては、需要と供給のバランスが崩れることはあっても最終的には均衡価格に落ち着きます。
需要曲線を詳しく見ていこう!
ここでは、需要曲線について詳しく解説していきます。
需要曲線は、価格と需要量の関係を示すグラフです。
横軸に需要量、縦軸に価格を取り、通常は右下がりの曲線として描かれます。

グラフのように、価格が高くなると需要が減少し、価格が低くなると需要が増加します。
このように価格の変動は需要曲線上で行われていますが、外的要因によって需要曲線自体が変動することがあります。
需要曲線の変動
需要曲線は、価格の変化以外の要因によって左右に移動します。

以下は、需要曲線が左右に変動する主な要因です。
① 所得の変化
② 消費者の嗜好の変化
③ 代替品や補完品の価格の変化
④ 政府の政策
① 所得の変化
・所得が増加
→ 所得が大きくなると、消費者はより多くの財を購入することができるようになります。
この場合、需要曲線が右に移動し、需要が増加します。
・所得が減少
→ 所得が小さくなると、消費者の購買力は減少してしまいます。
この場合、需要曲線が左に移動し、需要が減少します。
② 消費者の嗜好の変化
・嗜好が高まる
→ 夏場にアイスが売れるように、特定の商品に対する人気が上がると需要が増えます。
この場合、需要曲線が右に移動し、需要が増加します。
・嗜好が下がる
→ 夏が終わり寒くなってくるとアイスが売れなくなるように、商品に対する関心が薄れると需要が減ります。
この場合、需要曲線が左に移動し、需要が減少します。
③ 代替品や補完品の価格の変化
・代替品の価格が上昇
→ バターの値上げでマーガリンの需要が増えるように、代替品が高くなると当該商品の需要が増えます。
この場合、需要曲線が右に移動し需要が増加します。
④ 政府の政策
・政府の政策によってある製品(お酒、たばこなど)が制限
→ お酒やたばこなど健康問題がある製品に対して、政府が広告の制限やパッケージに警告をつける義務を課すなど、製品に対して制限を駆けることがあります。
この場合、需要曲線は左へ移動し、需要が減少します。
供給曲線を詳しく見ていこう!
ここでは、供給曲線について詳しく解説していきます。
供給曲線は、価格と供給量の関係を示すグラフです。
横軸に供給量、縦軸に価格を取り、通常は右上がりの曲線として描かれます。

グラフのように、価格が高くなると供給が増加し、価格が低くなると供給が減少します。
このように価格の変動は供給曲線上で行われていますが、外的要因によって供給曲線自体が変動することがあります。
供給曲線の変動
供給曲線も、価格の変化以外の要因によって左右に移動します。

以下は、供給曲線が左右に変動する主な要因です。
① 生産コストの変化
② 技術の進歩
③ 政府の政策
① 生産コストの変化
・コストが低下
→ 原材料の値下げなど、生産コストが低下すると企業はより多く供給できます。
この場合、供給曲線が右に移動し、供給が増加します。
・コストが上昇
→ 原材料の値上げなど、生産コストが増加すると、企業の生産量が減り供給量が減少します。
この場合、供給曲線が左に移動し、供給が減少します。
② 技術の進歩
・技術向上
→ 技術が向上することで生産効率が上がり、同じコストでもより多く生産できるようになります。
この場合、供給曲線が右に移動し、供給が増加します。
③ 政府の政策
・補助金の増加
→ 政府の支援によって生産が促進されると、企業は生産量を増やします。
この場合、供給曲線が右に移動し、供給が増加します。
・税金の増加
→ 増税が行われることで生産コストが増加し、供給量が減少します。
この場合、供給曲線が左に移動し、供給が減少します。
弾力性とは?
価格の弾力性とは?
経済学、特に需要曲線・供給曲線において「弾力性」というワードが登場します。
弾力と聞くと「肌の弾力」「スーパーボールの弾力」のように「(モノなどに対して)押し込んでも元に戻る、弾む」といったイメージを持つ人が多いのではないでしょうか?
しかし、経済学の場合、「価格」という実態がないもの対して“弾力性”が使われます。
「価格の弾力性」というのは、ある商品の値段が上がったり下がったりした時に、消費者の需要量や生産者の供給量がどのくらい変化するのかを示す指標です。
もっと簡単にいうと、
「モノの値段が変わったら、人々の買う量や売る量はどのくらい影響を受けるのか?」
を数値で表したものです。
価格の変化で影響を受ける場合を弾力的、価格の変化にあまり影響を受けない場合を非弾力的といいます。
それでは、価格の弾力性が実際にどのような影響を与えるのか解説します。
需要の価格弾力性について
需要の価格弾力性は、価格の変化に対して需要量がどれだけ反応するかを測る尺度です。

価格の変化に対して需要量が大きく反応するとき、その財の需要は弾力的であり、価格の変化に対して需要量があまり変化しないとき、その財の需要は非弾力的となります。
需要の価格弾力性の測定方法は、需要量の変化率を価格の変化率で割って算出されます。
一般的に、弾力性が1よりも大きいときは需要は弾力的、弾力性が1より小さいときは需要は非弾力的になります。
需要の価格弾力性が大きい場合
まずは、価格の弾力性が大きい場合について見ていきましょう!

弾力性が大きい場合、需要曲線の傾きはなだらかになります。
需要曲線がなだらかな場合、すなわち弾力性が大きい場合に値段が上がったらどのような変化があるのかグラフで確認しましょう!
グラフを見てみると、少し値段が上がるだけで需要がかなり減ってしまうことが分かります。
これは、消費者が価格変化に敏感であることを表しており、消費者はその商品の値段が少し上がるだけで購入するのをやめたり、代わりの商品を購入するようになります。
テーマパークのチケットやブランド品などの趣向・ぜいたく品は、値段が下がったら多くの人が購入しようと集まりますが、反対に値段が上がったら購入したい人は減り、他の安いものに人が流れます。
- 消費者が価格の変化に対して敏感
- 価格が上がった場合、消費者は購入を控えたり他の商品に流れる
- 価格が下がった場合、消費者はこぞって買い求める
- 需要の弾力性が大きいものとして、ぜいたく品や趣向品などが挙げられる
需要の価格弾力性が小さい(非弾力的)場合
次に、価格の弾力性が小さい場合について見ていきましょう!

弾力性が小さい場合、需要曲線の傾きは急になります。
需要曲線が急な場合、すなわち弾力性が小さい場合、値段が上がったらどのような変化があるのかグラフで確認しましょう!
グラフを見てみると、値段が上がっても需要がそこまで減少しないことが分かります。
これは、消費者が価格変化にあまり反応しないことを表しており、消費者はその商品の値段が上がっても購入をやめることがありません。
お米などの主食や電気・水道などの必需品は、値段が上がったからといって他の代替手段がなく需要はそこまで下がらず、反対に値段が安くなったからといって需要はそこまで大きくなりません。
- 消費者は価格の変化にあまり反応しない
- 価格が上昇しても、消費者はその商品を買い続ける
- 需要の価格弾力性が小さいものとして、生活必需品(お米などの食料品)や代わりのものが少ないもの(電力や水道)が挙げられる
供給の価格弾力性について
供給の価格弾力性は、価格の変化に対して供給量がどれだけ反応するかを測る尺度です。

価格の変化に対して供給量が大きく反応するとき、その財の供給は弾力的であり、価格の変化に対して供給量があまり変化しないとき、その財の供給は非弾力的となります。
供給の価格弾力性の測定方法は、供給量の変化率を価格の変化率で割って算出されます。
一般的に、弾力性が1よりも大きいとき供給は弾力的、弾力性が1より小さいとき供給は非弾力的になります。
供給の価格弾力性が大きい場合
まずは、価格の弾力性が大きい場合について見ていきましょう!

弾力性が大きい場合、供給曲線の傾きはなだらかになります。
供給曲線がなだらかな場合、すなわち供給の弾力性が大きい場合、値段が上がったらどのような変化があるのかグラフで確認しましょう!
グラフを見てみると、少し値段が上がると供給が大きく増加することが分かります。
これは、生産者が価格変化に敏感であることを表しており、生産者は製品の値段が少し上がると供給量を増やします。
- 生産者が価格の変化に対して敏感
- 価格が上がった場合、生産者はすぐに生産量を増やす
- 価格が下がった場合、生産者はすぐに生産量を減らす
- 供給の弾力性が大きいものとして、衣類など資源が豊富で生産が比較的容易であるものが挙げられる
供給の価格弾力性が小さい場合
次に、価格の弾力性が小さい場合について見ていきましょう!

弾力性が小さい場合、供給曲線の傾きは急になります。
供給曲線が急な場合、すなわち弾力性が小さい場合、値段が上がったらどのような変化があるのかグラフで確認しましょう!
グラフを見てみると、値段が上がっても供給はあまり増加しないことが分かります。
これは、生産者が価格変化にあまり反応しないことを表しており、生産者は商品の値段が上がってもあまり供給を増やしません。
- 生産者は価格の変化にあまり反応しない
- 季節の農作物や魚類は供給量を調節できないので非弾力的
- 農業、漁業のほかに不動産やコンサートなども非弾力的
需要曲線・供給のその他論点「価格の規制」
価格の規制とは
需要曲線・供給曲線では、価格が「大きいとき or 小さい」ときの需要・供給の変動を見てきましたが、実際には価格に「規制」がかかることがあります。
例えば、賃金の場合は「最低賃金」という規制があるので、極端に低い価格で働かせることができませんよね。
ここでは、「価格の制限」が需要曲線・供給曲線に与える影響について解説します。
価格の上限
価格の上限とは、「法律で決められた最大価格」を意味します。
「なんで価格に上限を決めるの?」と思いますよね。
例えば、家賃やガソリンのように、価格が上がりすぎると国民の生活が苦しくなるようなものに対して価格の規制が導入されていたことがあります。(現在廃止されています。)
それでは、価格の上限の例として、ガソリン価格のグラフを見ていきましょう。

均衡価格よりも価格の上限が高い場合(均衡価格<価格上限)、価格の上限はガソリンの価格に影響を与えません。
反対に、均衡価格の方が価格の上限よりも高い場合(均衡価格>価格上限)、ガソリンは上限の価格で取引されるようになるので、ガソリンが不足してしまいます。
価格の下限
価格の下限とは、「法律で決められた最低価格」を意味します。
価格の下限の例として「最低賃金」が有名です。
政府は、労働者の最低限の生活水準を保証するために「法律で定めた最低価格」として最低賃金を制定しています。
「最低賃金が1,000円を超えた」など、最低賃金に関するニュースを見たことがある人も多いかと思います。
価格の下限の例として、最低賃金が労働市場にどのような影響を与えるのかグラフで確認しましょう。

最低賃金が均衡水準よりも低い場合(均衡価格>価格下限)、労働市場に影響はありません。
反対に、最低賃金が均衡水準よりも高くなる場合(均衡価格<価格下限)、労働の供給量が需要量を上回るので失業が生じてしまいます。
「最低賃金が上昇すると生活が豊かになる」という意見がある一方、このグラフが示すように最低賃金の上昇は労働者が失業するリスクを高めてしまいます。
まとめ
需要曲線と供給曲線は、経済の基本的な仕組みを理解するうえで欠かせない概念です。
- 需要曲線・・・「価格が下がるほど買いたい量が増える」という消費者側の行動
- 供給曲線・・・「価格が上がるほど作りたい量が増える」という企業側の行動
そして、この2つが交わる均衡点が、実際の市場で決まりやすい適正な価格(均衡価格)と取引量になります。
価格が高すぎれば需要が減り、価格が低すぎれば供給が不足するため、市場は自然に均衡へと調整されます。
これは野菜の価格が天候で変動したり、人気商品が値上がりしたりする場面でも見られます。
需要と供給の関係を理解すると、ニュースで語られる「物価」「インフレ」「デフレ」などの仕組みもより深く読み解けるようになるので、ぜひ需要曲線・供給曲線のメカニズムを理解しておきましょう!



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