お米や野菜はなぜ価格の変動が大きいの?経済学の視点からわかりやすく解説!

お米や野菜はなぜ価格の変動が大きいの?経済学の視点からわかりやすく解説! 経済学

「台風の影響で不作だから野菜が高い」
「1年通して気候が良く豊作だったのでお米が安い」

このように、ニュースをみると天候の影響を受けて農作物の価格がよく変動していますよね。

スマホや家電など、一般的な製品は

「作りすぎたから安く販売します」
「あまり作れなかったので値段が高くなります」

とはならず価格がほとんど変動しないのに対して、なぜ農作物は収穫量がすぐ価格に影響を与えるのでしょうか?

今回は「野菜はなぜ価格変動が起きやすいのか、変動幅が大きいのか」を経済学の視点から解説します!

今回の農作物の価格の説明には需要曲線・供給曲線や弾力性が登場するので、先にこちらの記事を見ることをおすすめします!

農作物の価格変動が大きいデータ

まずは、農作物の価格変動のデータを確認してみましょう。

(農林水産省HPより参照)

このデータは平成22年のものですが、レタスの価格は最大で平年の2倍上昇、トマトの価格は最大で平年の1.5倍上昇していることが分かりますよね。

また、2024年からのお米不足の影響でスーパーでのお米の価格が平年時と比べて2倍以上になるなど、農作物の価格高騰は私たちの生活に大きく影響を与えます。

(農林水産省HPより参照)

このグラフはお米の相対取引価格の推移を表していますが、令和5年から令和7年にかけて取引価格が約2.5倍増加していることが分かります。

相対取引価格とは・・・相対取引価格は、JA全農や農協などの出荷業者と卸売業者の間で取引する際の契約価格のことです。
(農作物の流れ:生産者→出荷業者→卸売市場→小売業者(スーパーなど)→家庭)

経済学の観点から見ていこう!

需要曲線・供給曲線とは?

まずは、今回の解説で登場する「需要曲線・供給曲線」について軽く説明します。

この「需要曲線・供給曲線」は

  • 需要曲線・・・右下がりの曲線で「価格が上がると需要が減り、価格が下がると需要が増える」という、消費者側の行動を示す。
  • 供給曲線・・・右上がりの曲線で「価格が上がると供給が増え、価格が下がると供給が減る」という、生産者側の行動を示す。

となっています。

まずは、この関係性についてのグラフを見てみましょう!

コンビニのおにぎりを例に考えてみましょう。

・おにぎり1個が600円のとき

おにぎりの価格が600円の場合、消費者にとっておにぎり1個が600円というのは高額なので「高くて買えない」と思う人が多くなり需要が下がります。反対に、お店にとってはおにぎり1個が600円になると収益が大きくなるので「たくさん売りたい」と考え供給を増やします。

この結果、おにぎりが欲しい人の数に対して供給の方が大きくなり、市場におにぎりが溢れかえってしまうので、おにぎりの価格が下がっていきます。

・おにぎり1個が100円のとき

おにぎりの価格が100円の場合、消費者にとっておにぎり1個が100円というのは安価なので「たくさん買いたい」と思う人が増え、需要が増加します。反対に、お店にとってはおにぎり1個が100円になると収益が小さくなるので「あまり売りたくない」と考え、供給を減らします。

この結果、おにぎりが欲しい人の数が供給を上回り、市場からおにぎりがなくなってしまうので、おにぎりの価格が上昇します。

おにぎりが1個600円のとき
  • 消費者・・・おにぎりが高くて買えないので、買い控えや代替品(パンなど)への移行が起きる→需要が下がる
  • 生産者・・・1個当たりの収益が大きいので、おにぎりをたくさん作って売りたい→供給が増える
おにぎりが1個100円のとき
  • 消費者・・・おにぎりの価格が安いので、買いたい人の数が増える→需要が大きくなる
  • 生産者・・・1個当たりの収益が小さいので、おにぎりをあまり作りたくない→供給が減少する

このように、消費者の行動と供給者の行動は相反しますが、市場メカニズムが働くことで曲線の交わる点である均衡点で価格が落ち着きます。

しかし、農作物における需要曲線・供給曲線は少し異なります。

農作物の需要曲線・供給曲線

先ほど見た需要曲線・供給曲線はクロス型になっていましたよね。

それに対して、農作物の供給曲線は垂直になっているので、クロス型ではあるもののグラフの形がきれいではありません。

先ほど解説したように、供給曲線は「価格が高いものをたくさん供給したい」ので右肩上がりになっていましたよね。

しかし、農作物の場合、収穫量以上の供給は不可能なので「価格が高いものをたくさん供給する」ことができず、その年に収穫した量で農作物の価格が決まってしまいます。

このように、農作物は「需要と供給」ではなく収穫量で価格が変動します。

それでは、もう一度農作物のグラフを確認してみます。

供給曲線は垂直になっており、需要曲線の傾きもかなり急になっていますよね。

これは、農作物は価格が下がったからといっても需要はそこまで増えませんし、価格が上がったからといって需要があまり下がらないためです。

野菜の価格が高くなったからといって「今年は野菜が高いからほとんど食べない」とはなりませんし、野菜が安いからといって「野菜が安いから1日3食野菜をメインで食べる」とはなりませんよね。

ここまでは農作物の需要曲線・供給曲線を解説しましたが、次に農作物が価格調整できない理由を説明していきます。

なぜ農作物は価格の調整ができないの?

お米や野菜の価格が高騰すると、

「収穫量を調整して価格の調整はできないの?」

のように、なぜ安くしようとしないのか疑問に思いますよね。

ここでは農作物が価格の調整が「できないor難しい」理由を説明します。

一般的な製品と農作物の大きな違いは、生産期間です。

工場などで生産する製品であれば、工場の稼働率にもよりますが、市場の需要を確認しながら増産・減産をすることが可能ですよね。

パン屋さんで考えて見ましょう。

例えば、ドラマやアニメの影響でメロンパンブームが発生したとします。

このとき、もしパン屋さんがいつも通りの量しかメロンパンを作っていなかった場合、需要に対して供給が少なくなりすぐに売り切れるようになるので、メロンパンの価値が高まり価格が上昇します。

すると、メロンパンに対する需要の増加や価格の上昇を受けて、パン屋さんは他のパンの生産を減らしてでもメロンパンを大量に生産して、売り上げを伸ばそうと考えます。

その結果、需要の増加に対して供給量がすぐに追いついてしまうので価格の上昇がおさまり、だんだんと適正価格へと戻っていきます。

このように、パンや工場生産の製品は需要の増加に対してすぐに供給量を増やすことができますよね。

しかし、農作物の場合、「種まきから収穫までかなりの時間がかかる」ことや「季節に大きく依存している」ことから、短期間で供給量を調整することができません。

例えばお米の場合、お米の収穫量が少なかったことが原因で「需要>供給」になり、お米の価格が高くなってしまっても、すぐに作ることはできず、最短でも収穫は1年後になってしまいますよね。

このように、農作物の供給(特に季節のもの)はその年の収穫量しか供給ができないため、需要に合わせて供給を変動させて価格を調整することができません。

農作物をたくさん生産したら解決する?

それならば、「あらかじめたくさん生産して、供給を調整したら価格が安定するのでは?」と考えるかもしれません。

確かに、すぐに生産できないのであれば、あらかじめたくさん作っておけば解決しそうに感じますよね。

しかし、残念ながらそうはいきません。

先ほどの需要曲線・供給曲線をもう一度みてみましょう。

このように、農作物は「供給量=収穫量」なので、収穫量が増えれば増えるほど供給曲線が右側へ移動して、その分価格が安くなってしまいます。

さらに、農作物の需要曲線は非弾力的で傾きが急なので、わずかな収穫量の変化でも価格が大きく変動します。

そのため、生産すればするほど農作物の価格が下がっていき、農家の方の収入が減ってしまいます。

「価格が下がっても、供給が増えることで収入はそんなに変わらないのでは?」

このような意見を持つ人もいるかもしれませんが、果たしてこの意見は正しいのでしょうか?

実は、生産者の収益についても、需要曲線を使って計算することができます。

例を使ってグラフで確認しましょう。

カブの収穫量が5000万個(1個200円)の時と1億個(1個50円)の時で比較してみます。

収穫量が5000万個の場合、グラフの数値で計算してみると、売り上げは

200円×5000万個=100億円

になります。

一方、収穫量が1億個の場合、グラフの数値で計算してみると、売り上げは

50円×1億個=50億円

と、収穫量が2倍増えたのに対して、売上高が半減になってしまいます。

このように、農作物の需要曲線の傾きは急、供給曲線の傾きは垂直なので、収穫量の変化に対して価格の変動幅が大きく、生産量が増えると急激に収益が下がります。

あくまで例としての数値ですが、農作物をたくさん生産しすぎた結果価格が下がってしまい貧乏になってしまうという「豊作貧乏」の状態になってしまいます。

お米は増産すべき?

2024年には不作や日向灘沖地震の影響(南海トラフ地震の恐れ)もあって、お米の需要と供給のバランスが悪化し、お米の価格が高騰しましたよね。

価格の高騰の原因がお米の需要に対して供給が少なくなったことなので

「お米の収穫を増やした方がいいんじゃないか」

という意見が多数出ていますよね。

お米の価格が高騰してしまった場合、お米の生産量は増やすべきなのでしょうか?

これに関しては、お米の高騰の原因によります。

例えば、お米の生産量が少ないことが原因でお米の価格が高騰している場合、需要曲線・供給曲線の理論では供給量を増やすことでお米の価格が下がるので、お米の増産をすべきであるといえますよね。

では、なぜ日本政府はお米の増産をしないのでしょうか?

それは、今回のお米の価格高騰の原因が「生産量の少なさではない」といわれているからです。

実際に、2025年のお米の収穫量は前年度よりも1割ほど多く、お米の収穫量自体は十分に足りていることから日本政府は減産を決定しています。

先ほども述べた通り、今回発生したお米の価格高騰は南海トラフ地震の発生の恐れが出たことが原因です。

自然災害に備えて「念のためにお米を買っておこう」と考える人が増え、そのニュースが流れることで「お米が無くなる前に買わなきゃ」といつも以上にお米を購入する人が増えてしまいます。

その結果、お米の需要が急激に増加しお米不足になり、価格が高騰しましたよね。

また、価格高騰を受けて価格が2倍以上になってもお米が売れることが分かったので、仲介業者は利益を得るために多少値が張っても生産者からお米を買い求め、高い値段で小売業者に売るようになったことも原因の一つだとされています。

このように、今回のお米価格の高騰はお米の供給量の問題だけでなく、“一時的な需要の増加”や“投機目的”によって価格が高騰しています。

もし、この状況でお米の生産量を増やした場合、確かにお米の価格は下がるかもしれません。

しかし、お米の増産(供給の増加)による価格の下落だけでなく、卸売業者や小売業者など高値で売買していた業者が「お米の値段が下がる前に売り切らなきゃ」と損切りを決め、在庫を一気に供給に回すことによる価格の下落が重なる恐れがあり、最悪の場合バブル崩壊のように日本のお米市場が崩壊するリスクがあります。

2025年に鈴木農林水産大臣が「マーケットメカニズムによってお米の価格は下がるから、政府は介入しない」という内容の発言をしたことで話題になりましたが、これは現場の状況はもちろん、経済学の視点も含まれていることが分かりますよね。

(もちろん、このお米の問題は経済学だけでなくさまざまな論点を含んでいるので、「増産しないことが正しい」ということを示しているわけではありません。今回は需要曲線・供給曲線やバブルの論点から紹介しました。)

このように、農作物はたくさん生産したら良いという訳ではなく、需要と供給のバランスを安定させることが何よりも重要になります。

まとめ

農作物の需要曲線・供給曲線には、工業製品や加工食品とは異なる“独特の性質”があります。

需要は比較的安定しているので急激に増減しにくい一方で、収穫量(供給)は天候や収穫時期に強く左右されてしまいます。

また、農作物は種まきから収穫まで時間がかかるため価格に合わせた生産調整がほぼ不可能なので、不作時に需要>供給になってしまうと価格が急騰することもあります。

反対に、農作物を作りすぎや豊作によって大量に市場に出回ると価格が大きく下がり、生産者の収入が減ってしまう「豊作貧乏」という現象も起こります。

このように、農作物の需要・供給を理解しておくと国の政策を理解しやすくなるので、ぜひ覚えておきましょう!

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