令和の米騒動はなぜ起こった?データを使ってわかりやすく解説!

令和の米騒動はなぜ起こった?データを使ってわかりやすく解説! 経済学

2024年の夏ごろからお米が不足し価格が高騰する「令和の米騒動」が起こりました。

今回の米騒動では「スーパーにお米が売っていない」「値段が今までの倍以上になっている」など、私たちの生活に大きなダメージを与えています。

そもそも、なぜこのような騒動が起きてしまったのでしょうか?

今回は、「令和の米騒動」はなぜ起こったのかを初心者にもわかりやすく、経済学と農業の視点から丁寧に解説します。

*今回の記事は、主に農林水産省がHPで公表しているデータを参照しています。

令和の米騒動とは?

まずは「令和の米騒動」とは何なのかをおさらいしましょう!

2024年に、気候変動による収穫量の減少や南海トラフ地震の注意報を受けてお米の買いだめが発生し、「スーパーにお米が売ってない」「価格が急に高くなった」という声がSNSやニュースで大きく取り上げられるようになりました。

その情報が広まることで、さらに買いだめをする人が増えお米の価格の高騰してしまう“令和の米騒動”と呼ばれる現象が起きました。

今までお米の不作の年や災害が発生した年はあったものの、ほとんどお米の価格に影響はありませんでしたよね。

しかし、今回は“令和の米騒動”という社会現象になるまで事態は大きくなっています。

それでは、なぜ今回令和の米騒動は起こってしまったのか、その原因を見ていきましょう!

令和の米騒動の原因

令和の米騒動の原因

1. 需要の見通しの見誤り
2. 南海トラフ地震臨時情報(注意報)の発表による買いだめ
3. 集荷業者による価格競争で買取価格が高騰

1. 需要の見通しの見誤り

近年、「少子高齢化」「人口減少」「食の多様化」などの要因により、日本のお米の需要は年々下がり続けており、政府は需要の減少に合わせてお米の生産量を減らすように調整していました。

しかし、2023年は需要の見通しが682万トンに対して需要実績が705万トン、さらに2024年には需要の見通しが674万トンに対して需要実績が711万トンと、ここ2年は予想と実績の差が開いています。

この予想と実績の差には、

  • 精米歩留まりの悪化
  • インバウンド需要の増加
  • 家計購入量の増加

が原因として挙げられます。

・精米歩留まりの悪化

精米歩留まりの悪化とは、近年の異常気象、特に気温の上昇によってお米がダメージを受けてしまい、玄米から精米にする段階でお米の量が減ってしまうことを指します。

この精米歩留まりの悪化の影響もあって、ここ2年ほどは収穫量に対して精米の量が少なかったので、お米の供給量も少なくなっていました。

・インバウンドによるお米需要の増加

インバウンドによるお米需要の増加は皆さんも知っての通り、ここ数年海外からの観光客の増加に合わせて、ホテルや飲食店でお米の需要が増加していることを示しています。

2023年には2.1万トンだった需要が2025年には6.3万トンへと、たったの2年で需要が3倍も増加しています。

・家計購入量の増加

家計購入量の増加は家計のお米の需要を示していますが、2023年から2025年の2年間で約13万トンも増加しています。

この大幅な増加の要因を特定するのは困難でいまだにはっきりとはわかっていませんが、「故郷納税」や「パックご飯の人気上昇」、「震災による買いだめ」などが影響しているのではないかといわれています。

2. 南海トラフ地震臨時情報(注意報)の発表による買いだめ

次に、南海トラフ地震臨時情報の発表によるお米の買いだめです。

近年の気候変動の影響もあって、2023年・2024年のお米の収穫量は少なかったものの、民間の在庫量が十分にあったことからお米の値段は安定していました。

今回発生した令和の米騒動は、2024年の夏に発生した日向灘沖地震によって初めて南海トラフ地震臨時情報が発表されたことがきっかけです。

南海トラフ地震の予想地域で大きな地震があった場合に「南海トラフ地震が発生する可能性がある」という警報や注意報が発表されますが、この日向灘沖地震で初めて注意報が発表されました。

この注意報が発表されたことで「南海トラフ地震が起きてしまうかも…」という緊張感が漂い、お米などの保存できる食品の買いだめが全国で起こりました。

この頃から、ニュースやSNSで「お米が売っていない」という情報がたくさん流れるようになり、米不足に対する不安や余分に確保しようとする消費者心理から、さらにお米の買いだめが進んでいきました。

3. 集荷業者の買取価格が高騰

お米が不足することでお米を確保しようとするのは消費者だけではありません。

お米が少なくなりお米の価格が上がると、当然ですが「お米を扱えば利益が出る」という状況になりますよね。

これまではJAや従来の流通業者が中心でしたが、「お米の価格が高い今がチャンス」と考えた新規の業者や転売ヤーのような業者が参入し、集荷業者の数が増えてしまいました。

実際に、江藤前農林水産大臣は、令和7年4月1日の記者会見で「転売ヤーといわれるような方々も一部市場に参入してきている」と述べています。

新規の業者が増えるとどうなるでしょうか?

それは、お米農家からお米を「取り合い」するようになります。

ある業者が値段を上げてお米を確保しようとすると、他の業者もお米を確保するためにその価格よりも高い金額を出さなければならなくなります。

その結果、買取価格をどんどん引き上げる競争が生まれました。

データを見てみると、集荷業者と卸業者の間の取引価格を示す相対取引価格は、令和5年産までは11,000円~16,000円あたりを推移していましたが、令和6年産の平均価格は24,825円、令和7年産の9月の価格は36,895円と急激に価格が上昇していることが分かりますね。

相対取引価格とは・・・相対取引価格は、JA全農や農協などの集荷業者と卸売業者の間で取引する際の契約価格のことです。
(農作物の流れ:生産者→集荷業者→卸売市場→小売業者(スーパーなど)→家庭)

(農林水産省のHPより)

令和7年(2025年)は、ここ10年で最多の収穫量である748万トンを記録しお米不足は解消しているものの、相対取引価格が高いままなので市場のお米の価格は高水準になっています。

このように、お米の量が足りているのにも関わらずお米の価格高騰が長期化しているのは、集荷業者の価格競争による相対取引価格の上昇が原因といわれています。

ここまでは令和の米騒動の原因を解説しましたが、政府はどのような対策をとったのでしょうか?

政府の対応

このような米価格の高騰を受けて、日本政府はどのような対策を行う&行なったのでしょうか?

令和の米騒動に対する政府の対応

1. 備蓄米の放出
2. 2025年の生産量を上げる
3. お米券の発行

1. 備蓄米の放出

お米の価格高騰を受けて、まず政府が行なった政策が「備蓄米の放出」です。

日本には、食料の安定供給のために政府が買い入れて保管している「政府備蓄米」があります。

これは自然災害や不作などコメの安定供給が脅かされたときに備えている”非常用ストック”なので平時は手を付けませんが、今回お米価格の急騰を受けて市場へと放出されました。

備蓄米が市場に出ることで一度にお米の流通量が増えるので、一時的にお米の不足感が解消されお米の価格が少し下がりましたが、今回の価格高騰は集荷業者による価格競争が原因ということもあり、すぐに高い価格へと戻ってしまいました。

2. 2025年の生産量を上げる

令和の米騒動以前に、2023年は異常気象の影響もあってお米が不作で、2023年、2024年は需要<供給の状態で不足分は民間在庫で補っている状態でした。

このように、もともとのお米不足があった中でさらにお米価格の高騰も合わさったので、2025年は収穫量を増やし、ここ10年で最大の748万トンも生産しました。

2025年の収穫量は予想の需要量を大きく超えており、ここ数年少なくなった民間在庫を元の数値まで戻す分の量であるため、お米の量が不足するという事態にはならないといえますね。

とはいえ、原因でも述べた通り、集荷業者が高値で買い取った分のお米を全て売り捌けるか利益を諦めて値下げをするかしない限り、お米の価格が下がる状態にはなりません。

3. おこめ券の発行

「おこめ券」とは、お米の価格上昇で家計が圧迫されている家庭を支援するために、政府・自治体が配布する”食料品支援の1つ”です。

実はこのおこめ券は、もともと交付している”重点支援地方交付金”の一部として配布されます。

政府は物価高への対策として、2023年から地方自治体に「重点支援地方交付金」という財源を配っていますが、この交付金は自治体が自由度高く使えるのが特徴で、おこめ券もこの交付金の一部として実施されています。

そのため、自治体はお米用の交付金の使い方を自由に選択することができるので、

  • 国が準備したおこめ券をそのまま使用
  • 自治体独自のお米券を配布
  • お米を現物配布
  • 電子クーポンで配布

のように、各自治体で実施内容を選ぶことができます。

「おこめ券批判のために各自治体がおこめ券以外の政策を実施している」のように報道されているので、「なんで政府はおこめ券をやめないんだろう?」と感じますよね。

でも、そもそも政府が発行しているおこめ券は選択肢の一つで、各自治体が自由に政策を行うことができるという政策なので、地域によって支援の仕方が異なるのが自然です。

なぜお米の価格を下げる政策を行わないの?

ここまでの解説のように政府は様々な対策を行っていますが、

「そんなことよりもお米の価格を直接下げて欲しい!」

と思ってしまいますよね。

お米自体の価格を下げる手段として、SNSなどで

  • お米を増産する
  • 税金を投入してお米の販売価格を下げる

を支持する人が多いですが、なぜ政府はこのようにお米の価格を下げる政策を行わないのでしょうか?

その理由について解説します。

お米の価格を下げる政策を行わない理由
  • 急な増産は供給過多を引き起こし、お米の価格が暴落する恐れがある
  • 集荷業者に税金が流れてしまう

急な増産は供給過多を引き起こし、お米の価格が暴落する恐れがある

お米価格自体を下げる手段として

「お米を増産してたくさん作ってお米の価格を下げる」

という案を支持する人が多いですよね。

確かに、お米が不足していることが原因で価格が高騰している場合は、お米の量を増やすことで価格は落ち着いていくので良い案のように思えます。

しかし、今回の場合、集荷業者の価格競争が原因で、お米自体が不足しているわけではありません。

実際に2025年の収穫量は多く、卸業者の倉庫には大量のお米が保管されています。

そして、今回のようにお米の量が足りている状態で生産量を増やしてしまうと、お米が供給過多になってしまい価格が暴落してしまう可能性があります。

そうなると、お米農家の収入が激減し破産や農業からの撤退を引き起こし、将来お米の生産量が減ることでまたお米不足に陥ってしまいます。

集荷業者に税金が流れてしまう

今回のお米価格の高騰に直接政府が介入することが難しい理由として、お米価格の高騰は集荷業者の価格競争が原因であることも挙げられます。

「市場にあるお米の価格の一部を税金で負担して安く販売してほしい」

このように思ってしまいますが、税金を投入してお米自体の価格を下げるということは、価格競争で価格を引き上げてしまった集荷業者のミスを国が補填することになります。

「そのくらいはいいんじゃない?」

と思うかもしれませんが、もしこれを許容してしまうと、今後必需品に対して集荷業者などの仲介業者が価格を釣り上げて過度に利益を得ることが可能になってしまいます。

例えば、高額で転売されている商品を政府が税金を投入して適正価格に戻して買手を増やしてしまうと、転売業者は価格を釣り上げても売れることが分かり、さらに転売を行ったり新規の転売業者が参入してしまいますよね。

お米の場合は転売ではなく正規の販売ルートなので今回の例のようにはならないかもしれませんが、似たような現象が起きてしまうリスクは残ります。

なので、政府が直接お米自体の価格を下げることはできないのではないかと考えます。

今後は増産?減産?

主食であるお米の価格が高騰し、国民の生活を圧迫していることから

「お米を増産して価格を下げろ!」

という意見をよく目にするようになりましたね。

しかし、鈴木農林水産大臣は「増産しない」や「減産する」ことを決定したと報道されています。

今後は増産するのでしょうか?それとも減産するのでしょうか?

詳しく見ていきましょう!

今後のお米増産・減産についての政府の見解

1. そもそも減産するとはいっていない
2. 生産量を調整する減反政策は廃止されている
3. 2030年までに800万トン前後の生産量を目指している

1. そもそも減産するとはいっていない

鈴木農林水産大臣は増産するのかという質問に対して「需要に合わせた生産を目指す」と答えたことや、2026年の収穫量の見通しが711万トンと2025年よりも少ないことから「生産量を減らす=減産する」として批判を受けています。

しかし、一貫して「米の価格は市場が決めるべき」「需要に合わせた生産を目指す」といっているだけで、実は減産すると発言していません。

また、2026年の生産量の見通しが711万トンと2025年の748万トンから下がっているものの、711万トンは2021〜2024年の収穫量よりも多い数値です。

ここ10年で1番取れた年から下がっただけで減産と決めつけることはできませんよね。

このように、鈴木農林水産大臣は増産するとも減産するとも言っておらず、「需要に合わせた生産を目指す」としか発言していません。

2. 生産量を調整する減反政策は廃止されている

そもそも、政府がお米の生産量を調整する減反政策は2018年に廃止されているので、政府が意図してお米を減産することは非常に難しくなっています。

現在、政府は大まかな指標(「来年は○○万トンを目標にしています」など)は示しているものの、どのくらいの量を生産するかは各都道府県や農家が自由に決めることができます。

3. 2030年までに800万トン前後の生産量を目指している

2025年10月24日の記者会見で、鈴木農林水産大臣は「まず2030年の生産量、これを791万トンから818万トンに増大をさせるという基本計画の目標の下で、「需要に応じた生産」を進めるというこれまでの方針に変わりはありません。」と述べています。(農林水産省HPより)

ここ10年で最大の収穫量を記録した2025年で748万トンだったので、791万トン〜818万トンという数値は増産傾向に持っていくことを意味しています。

まとめ

“令和の米騒動”は単なるお米不足ではなく、震災の特別情報の影響や集荷業者の価格競争も大きな要因となっています。

つまり、今まで発生していたような「不作による全国的な深刻な米不足」ではなく、需給バランスの乱れが市場を一時的に混乱させたケースといえます。

SNSでは「お米を増産して価格を下げろ」といった意見をよく目にしますが、同じ「お米不足」でも原因によって対策は異なるので注意が必要です。

また、今回の米騒動で専門家ではないコメンテーターが「ああすべき、こうすべき」と強い口調で政府を批判したり、SNSでも「なんで政府はこんなことも知らないのか!」と発言したりしているのを見た人も多いのではないでしょうか?

実は、行動経済学の分野でダニング=クルーガー効果という現象です。

このダニング=クルーガー効果は「あるテーマに対して少しだけ知識がある人は自身の専門性を過大評価しやすい」という認知バイアスで、現在のSNSでよく見かけることができる現象です。(学習して知識が増えるにつれ、過信の度合いは下がっていきます。)

このように、経済学を学ぶことで、需要・供給と市場メカニズムの関係や人々の行動心理を理解でき、より正しい判断ができるようになります。

興味を持った方はぜひ経済を学んでみてはいかがでしょうか!

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