ニュースや新聞などで、
「政府が物価高対策として◯兆円規模の総合経済対策を実施した」
「日銀が政策金利を◯%程度まで引き上げた」
といった報道を耳にしたことがあると思います。
これらは、国の景気を下支えしたり、行き過ぎた物価上昇を抑えたりするための「財政政策」や「金融政策」です。
しかし、こうした政府や日銀の決定がどのようなメカニズムで私たちの生活や景気に影響を与えているのかイメージできる方は少ないのではないでしょうか?
その複雑な経済の仕組みを視覚的にわかりやすく説明してくれるのが「IS-LM曲線」です。
今回は、マクロ経済学の基礎であり、実際の経済ニュースを深く読み解くための必須知識でもある「IS-LM曲線」について、わかりやすく解説します!
IS-LM曲線とは?

IS-LM曲線(IS-LM分析)は、
「モノの市場(財市場)」と「お金の市場(貨幣市場)」の2つを統合し、国全体の景気と金利がどう決まるかを同時に分析するツール
です。
イギリスの経済学者ジョン・ヒックスが、ケインズ経済学の複雑な理論をわかりやすくグラフ化したもので、長年にわたりマクロ経済学の中核をなす分析手法として使われてきました。
そもそも、なぜ2つの市場を同時に考える必要があるのでしょうか?
それは、現実の経済では「モノ」と「お金」が密接に影響し合っているからです。
たとえば、企業が工場を建てるような設備投資(モノの動き)は、銀行の金利(お金の動き)に左右されます。
一方で、世の中の「お金を使いたい」という需要(お金の動き)は、人々の所得や景気の良さ(モノの動き)によって変化します。
つまり、どちらか片方の市場だけを見ていても、現実の経済の動きを正確に予測することはできません。
そこでIS-LM分析では、
- 縦軸・・・「利子率(金利)」
- 横軸・・・「国民所得(景気の良さ)」
をとったグラフを使います。

この2つの線がグラフ上で交わる「交点(均衡点)」を見つけると、モノの市場とお金の市場の両方が同時に釣り合う状態がわかります。
そこから、ただ1つの「国民所得」と「利子率」を導き出せるのが、この分析の最大の画期的な点です。

「IS」と「LM」という名前の由来は、それぞれの市場のバランスを示す英語の頭文字から来ています。
- IS曲線: 投資(Investment)と貯蓄(Saving)
- LM曲線: 貨幣への需要(Liquidity preference:流動性選好)と貨幣の供給(Money supply)
IS-LM曲線に必要な事前知識
IS-LM曲線を理解するためには、マクロ経済を構成する3つの重要な市場の役割を知っておく必要があります。
- 財市場
- 貨幣市場
- 金融資産市場
財市場
財市場とは、
私たちが普段買い物をするモノやサービス、そして企業が行う設備投資などが取引される市場
のことです。
この市場では、企業の設備投資は、資金を調達する際のコストである「利子率」が上昇したときに減少するという関係があります。
財市場では、これらの投資や消費、政府支出などを合わせた「総需要(有効需要)」が実際の総生産(国民所得)を決定すると考えます。
貨幣市場
貨幣市場とは、
世の中を回るお金(貨幣)の需要と供給が一致するように利子率が決まる市場
のことです。
一国の貨幣需要は、経済全体における取引総額(国民所得)が増加すれば増加する一方で、市場の利子率が上昇すれば減少するという性質を持っています。
金融資産市場
金融資産市場とは、
家計や企業が自らの貯蓄をどのように運用するか(資産選択)を行う市場
のことです。
人々は資産を選択する際、収益率の不確実性が小さい国債や銀行預金などの「安全資産」と、株式や社債のように高い収益率をもたらす可能性がある一方で不確実性を伴う「危険資産」を比較して決定します。
利子率の変動は、
「貨幣を手元に置いておくべき?」
「それとも利子のつく金融資産で運用すべき?」
という人々の行動に直接影響を与えます。
IS-LM曲線の解説
それでは、いよいよ本題のIS-LM曲線について、2つの曲線とそれが交わる点に分けて解説します。
- IS曲線(右下がりの曲線)
- LM曲線(右上がりの曲線)
- 均衡点(IS曲線とLM曲線の交点)
IS曲線(右下がりの曲線)
IS曲線は、
財市場において総需要(有効需要)と総供給が一致するような利子率と国民所得の組み合わせを表す曲線
です。
ただ、「財市場において総需要(有効需要)と総供給が一致するような利子率と国民所得の組み合わせを表す曲線」という文字だけだとわかりにくいですよね。
ここでは、式を使ってIS曲線を見ていきましょう。
IS曲線は以下の式をもとに作成していきます。

次に、この「Y = C + I(r) + G」という式を、数学の乗数を用いて以下のような式に書き換えます。

「数学が苦手で乗数がわからない」
「数学の要素が出てくると難しく感じる」
と感じるかもしれませんが、ここでは「式を書き換えるんだ」くらいの認識で、あまり深く考えなくてOKです。
ここからは、この式の「I(r)」に注目していきます。

書き換え後の式の「I(r)」の「r(利子率)」には
- 利子が小さくなる → 投資が増える
- 利子が大きくなる → 投資が減る
という関係があります。

金利の利子が小さいとお金が借りやすくなる(利息が少なく返済しやすい)ので、企業は銀行からお金を借りて投資にまわします。
気になる人は以下の金利の解説記事をご覧になってください!
つまり、利子率の変動によって「I(r)」の値(式の分子)も変化し、その結果Y(GDP)の数値も変わります。
- 利子が小さくなる → 投資が増える → GDPが大きくなる
- 利子が大きくなる → 投資が減る → GDPが小さくなる
このように、利子率が上昇した結果として企業の投資が減少すると、乗数効果によって国民所得はその投資乗数の倍数だけ減少することになります。

したがって、r(利子率)とY(国民所得)の関係をグラフに表すと、右下がりの曲線になります。
LM曲線(右上がりの曲線)
LM曲線は、
貨幣市場の均衡を表す国民所得と利子率との間の関係を示す曲線
です。
LM曲線についても式を使って解説していきましょう。
LM曲線は以下の式をもとに作成していきます。

この「M = L(Y, r)」という式は貨幣供給量を表す式です。
この式の中の「Y」と「r」の関係についてみていきましょう。

このように、貨幣供給量が一定の場合は
- Y(GDP)が増加 → r(利子率)が増加
- Y(GDP)が減少 → r(利子率)も減少
という関係になります。
つまり、国民所得Y(GDP)が増加すると人々の貨幣需要が増加するので、貨幣市場を均衡させるために利子率rが上昇します。

したがって、国民所得と利子率の組み合わせを示すLM曲線は、右上がりの曲線になります。
均衡点(IS曲線とLM曲線の交点)
IS曲線とLM曲線を一つのグラフに描いた場合、この曲線は交差します。

この両曲線の交点によって決定される国民所得と利子率は、それぞれ財市場と貨幣市場を同時に均衡させる値となります。
たとえば、一時的に世の中の景気が良くなり、国民所得(GDP)が交点の水準よりも増えたとします。
みんなの給料が増えると買い物や取引が増えるため、世の中の人は「もっと手元に現金(貨幣)を持っておきたい」と考えますよね。
しかし、世の中にあるお金の量には限りがあるため、お金の需要が高まると、銀行は「もっと高い利息を払うからお金を預けて欲しい!」と金利(利子率)を引き上げます(貨幣市場の調整)。
すると、金利が上がったことで、企業は「金利が高いと借金の返済額が大きくなるから、今は銀行からお金を借りて工場を建てるのはやめよう」と設備投資を控えます。
企業の投資が減ると経済全体の生産も減るため、過熱していた景気(国民所得)は少し冷え込みます(財市場の調整)。
このように、
「所得が増える → お金が足りなくなって金利が上がる → 金利が上がって企業の投資が減り、所得が落ち着く」
という連鎖が自動的に起きることで、最終的に経済は「モノの市場」と「お金の市場」の両方が釣り合う交点へと着地します。
IS曲線・LM曲線の移動とは?
IS曲線とLM曲線は、常に同じ場所にあるわけではありません。
政府や中央銀行が経済政策を行うと、グラフの線そのものが「右」や「左」へスライドします。
ここでは、ニュースでよく聞く2つの政策を例に、なぜ曲線が移動するのかをわかりやすく解説します。
1. 政府がお金を使うと「IS曲線」が右に動く(財政政策)
なぜ政府が公共事業や減税などを行うと、IS曲線は右に移動するのでしょうか。
先ほどの「Y = C + I(r) + G」を使って解説していきます。

いま、政府が景気を良くするために大規模な公共事業を行い、政府支出「G」を大きく増やしたとします。
このとき、もし一時的に銀行の金利「r」がまったく変わっていないと仮定します。
金利が変わらなければ、企業の投資「I」や家計の消費「C」は今のまま変化しません。
しかし、数式の右側にある「G」が増えた以上、左右のイコール(=)のバランスを保つためには、左側にある国民所得「Y」も同じ分だけ増えなければなりません。
つまり、
「金利が同じままでも、政府支出の分だけ国民所得(GDP)が増える」
ことになります。

これをグラフ上で考えると、あらゆる金利の水準において国民所得が右側へ押し上げられるため、結果としてIS曲線全体がそのまま右へスライド(シフト)することになります。
2. 貨幣の供給量が増えると「LM曲線」が右に動く(金融政策)
次に、LM曲線の移動についてです。
日銀などの中央銀行が世の中に出回るお金の量を増やす「金融緩和」を行うと、なぜLM曲線が右(下方向)へ移動するのでしょうか。
これも、先ほどの式である「M = L(Y, r)」を使って解説していきます。

右辺の「L(Y, r)」は、国民所得「Y」と金利「r」の2つによって変化する関数です。
具体的には、
「景気が良くなって所得「Y」が増えると、買い物のためにお金が必要になって「L」は増える」
「金利「r」が下がると、銀行に預けても利息がつかないため、手元に現金として置こうとする人が増えて「L」は増える」
という性質を持っています。
いま、中央銀行が景気を刺激するために金融緩和を行って、貨幣供給量「M」を大きく増やしたとします。
このとき、もし一時的に世の中の景気(国民所得「Y」)がまったく変わっていないと仮定しましょう。
景気が変わっていないのであれば、日々の買い物に必要なお金は増えませんよね。
しかし、数式の左側にある「M」が増えた以上、左右のイコール(=)のバランスを保つためには、右側にある貨幣需要「L(Y, r)」も同じ分だけ増えなければなりません。
では、国民所得「Y」が変わらないのに、人々が「もっと手元に現金を置いておこう(「L」を増やそう)」と思うのはどんな時でしょうか?
それは、「銀行に預けたり債券を買ったりしても、全然利息がつかない時」です。
つまり、「L」が増えるためには、金利「r」が下がる必要があります。
結果、
「国民所得が同じままでも、中央銀行がお金の総量を増やしてくれた分だけ自動的に金利が下がる」
ことになります。

これをグラフ上で考えると、あらゆる国民所得の水準において金利が下側へ押し下げられるため、結果としてLM曲線全体がそのまま下側(右方向)へスライド(シフト)することになります。
IS-LM曲線でわかること
IS-LM曲線を使うと、政府の「財政政策」や中央銀行の「金融政策」が、国の景気(国民所得)や金利(利子率)にどのような効果をもたらすかが一目でわかります。
- 財政政策の効果(政府支出の拡大):
政府が公共事業などの政府支出を拡大すると、IS曲線は右方へシフトします。
これにより、均衡点は移動し、国民所得は増加しますが、同時に均衡利子率も上昇することになります。
なお、このように政府支出が増加した際に利子率が上昇し、それによって民間投資が減少してしまう現象は「クラウディング・アウト」と呼ばれます。 - 金融政策の効果(貨幣量の増加):
中央銀行が市場に供給する貨幣量を増加させると、実質貨幣量が増加し、LM曲線は右下方へシフトします。
その結果、新たな均衡点へと移動し、利子率が下落する一方で、国民所得は増加することになります。
ただし、これら政策がどれだけ国民所得を増加させるかは、IS曲線やLM曲線の「傾き」が大きな影響を与えます。
たとえば、貨幣需要が利子率に影響を受けないためにLM曲線が垂直となるケースでは、
政府支出の増加は利子率を上昇させるのみで国民所得にまったく影響を与えない「100%クラウディング・アウト」が起こる
など、曲線の形によって政策の有効性が変化します。
以下のシミュレーターを使って、IS-LM曲線の動きを確認してみてください!
IS-LM曲線 シミュレーター
※スライダーを右に動かすとIS曲線が右にシフトし、国民所得と利子率が上昇します。
※スライダーを右に動かすとLM曲線が右下方にシフトし、国民所得が上昇、利子率が下落します。
まとめ
いかがでしたでしょうか!
IS-LM曲線は、一見すると複雑なマクロ経済の動きを「財市場(モノ)」と「貨幣市場(お金)」の2つの視点からシンプルに整理し、経済政策の効果を予測するための非常に優れたツールです。
- IS曲線(右下がり): モノの市場のバランスを示す。利子率が下がれば、投資が増えて景気(国民所得)が良くなる。
- LM曲線(右上がり): お金の市場のバランスを示す。景気(国民所得)が良くなれば、お金の需要が増えて利子率が上がる。
- 交点(均衡点): この2つのバランスがピッタリ合うところで、現実の「景気」と「金利」が決まる。
IS-LM曲線は難しい専門用語や数式が登場するので難しいイメージを持っている人も多いかもしれませんが、基本を理解することでスッと頭に入ってきます。
また、経済学部の試験や公務員試験だけでなく、実際の政府の財政政策や日銀の金融政策のニュースを詳しく理解できるようになるので、株やFXなどの投資にも役立ちます。
今回学習した内容を、ぜひ日常に活用してみてはいかがでしょうか!







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