「最近、モノの値段が上がって生活が大変…」
「ニュースでインフレによる新卒の賃上げが話題になってる」
このように、私たちの生活には、「物価」と「雇用」が密接に関わっていますよね。
その関係性をパッと見てわかるようにグラフ化したのが「フィリップス曲線」です。
今回は、経済ニュースや経済の試験で頻出する「フィリップス曲線」について、その基本的な仕組みから、「短期と長期での違い」という少し踏み込んだ重要知識まで、初心者向けにわかりやすく解説します!
フィリップス曲線とは?

フィリップス曲線とは、一言でいうと
「インフレ率(物価の上昇率)」と「失業率」の間に、逆の相関関係(トレードオフ)があることを示した右下がりの曲線
のことです。
イギリスの経済学者A.W.フィリップスが、過去のイギリスのデータを分析して発見しました。
グラフにすると、縦軸に「インフレ率(または名目賃金上昇率)」、横軸に「失業率」をとったとき、右下がりのカーブを描きます。

これは、景気が悪いときは失業率が高くなるとともにインフレ率(物価上昇率)は低くなり、景気が良いときは失業率が低くなるとともにインフレ率も高くなる関係を意味しています。
- インフレ率が高い(物価がどんどん上がる)場合 → 失業率は低くなる(仕事を見つけやすい)
- インフレ率が低い(物価が上がらない・下がる)場合 → 失業率は高くなる(仕事を見つけにくい)
つまり、経済において「物価の安定」と「完全雇用(みんなが働ける状態)」を同時に達成するのは非常に難しく、
「失業率を下げたければ、ある程度の物価上昇(インフレ)は受け入れなければならない」
「インフレを抑えるためには失業率の増加を受け入れなければならない」
というトレードオフの関係があります。
なぜ「物価」と「失業率」はトレードオフの関係になるのか?
では、なぜ物価と失業率は逆の動きをするのでしょうか?
現実の経済の動き(景気が良くなるパターン)をイメージしてみましょう。
- 景気の拡大
- 人手不足(失業率の低下)
- 賃金の上昇
- 物価の上昇(インフレ)
景気の拡大

世の中の景気が良くなると、人々の消費が増え、企業の商品やサービスがたくさん売れるようになります。
これを受けて、企業は「もっとたくさん作れば儲かる!」と考え、事業の拡大を図ります。
人手不足(失業率の低下)

製品やサービスがたくさん売れるようになるので、企業はもっと商品を作るために「もっと人を雇わなきゃ!」と考えます。
このように、企業が求人を積極的に出すようになるので、仕事を探している人が次々と採用されて、世の中の失業率はどんどん下がっていきます。
賃金の上昇

人手不足になると、企業は人材を確保するために「給料を高くするからウチに来て!」と他の企業と差を出すために条件を良くします。
このように、企業が人材確保のために給料を引き上げるので、賃金が上昇します。
物価の上昇(インフレ)

従業員の給料を上げた企業は、増えた人件費の分を商品の値段に上乗せします。
また、給料が増えた人たちはたくさん買い物をするため需要も高まり、結果として世の中の物価が上昇(インフレ)になります。
景気が悪くなる(デフレになる)場合は、これと全く逆のサイクルが起きます。
モノが売れないため企業は採用を控え(失業率上昇)、給料も上がらず、商品の値段を下げざるを得なくなる(インフレ率低下)のです。
「短期フィリップス曲線」と「長期フィリップス曲線」
ここからが、マクロ経済学において非常に重要なポイントです。
実は、先ほど解説した「右下がりのフィリップス曲線」が成り立つのは、あくまで「短期的な期間」だけだと言われています。
アメリカの経済学者ミルトン・フリードマンらは、
「長期的に見れば、物価と失業率のトレードオフは消滅する」
と主張し、「長期フィリップス曲線」という概念を提唱しました。
この「短期フィリップス曲線」と「長期フィリップス曲線」を、詳しくみていきましょう。
1. 短期フィリップス曲線(右下がり)
先ほど解説した通り、フィリップス曲線は
- 縦軸・・・「インフレ率(または名目賃金上昇率)」
- 横軸・・・「失業率」
をとったとき、右下がりのカーブを描く曲線です。

これは、
- 景気が悪いとき・・・失業率→高くなる、インフレ率→低くなる
- 景気が良いとき・・・失業率→低くなる、インフレ率→高くなる
関係を意味しています。
また、短期フィリップス曲線には、「景気をみながらインフレ率や失業率を調整できる」という考えがもとになっています。

例えば、現在はインフレ率が低く失業率が高いB地点の場合、財政政策や金融政策を行なって景気を刺激してAの地点へと調整することができると考えられています。
2. 長期フィリップス曲線(垂直になる)
短期フィリップス曲線で解説したような事象は1970年代ではあまりみられなくなり、長期フィリップス曲線という考えが誕生しました。
時代会計として、特に1970年代は2度のオイルショックが起こるなど、多くの国が高いインフレに悩んでいました。

インフレ率が高くなると、初めのうちは失業率は下がるものの、インフレ率が高いまま継続していると失業率はだんだんと元の数値に戻ってしまいます。
反対に、インフレ率が低くなると、初めのうちは失業率は上昇するものの、インフレ率が低いまま継続していると失業率はだんだんと元の数値に戻ってしまいます。
このように、長期間のインフレの場合、今までのフィリップス曲線の考えと実際の経済が合わなくなってしまいました。

例えば、インフレが長期間続くと企業は人件費の負担に耐えきれなくなり、結局は人を雇うのをやめたり、リストラを始めたりします。
その結果、長期的には「インフレ率だけが高止まりし、失業率は元の水準に戻ってしまう」現象が起こります。

この関係をグラフで表すと、長期フィリップス曲線は特定の失業率(自然失業率)のところで「垂直な直線」になります。
また、長期フィリップス曲線では
- 財政政策や金融政策による調整はかえって景気を悪化させる可能性がある
- マネーストックの成長率の安定や財政収支のバランスのほうが重要
という考えがあります。
新古典派とケインジアン
今回解説した「短期フィリップス曲線」と「長期フィリップス曲線」の考え方は大きく異なっていましたよね。
実はこれにはマクロ経済学を二分する2大派閥である「ケインジアン」と「新古典派」が関係しています。
経済に問題(失業など)が起きたとき、ケインジアンと新古典派では「市場(マーケット)の力」と「政府の役割」について、それぞれ全く逆のアプローチをとります。
- 短期フィリップス曲線・・・ケインジアン
- 長期フィリップス曲線・・・新古典派
ここでは、簡単にマクロ経済学の考え方の解説をします。
ケインジアン
ケインジアンとは、イギリスの経済学者ケインズの考え方を受け継ぐグループです。
ケインジアンの主張を一言でいうと、
「市場は完璧ではないから、不景気のときは政府が積極的に介入するべき」
というものです。
- 市場の捉え方: モノの値段や給料は、一度上がるとなかなか下がらない(「価格の硬直性」)。そのため、不景気になっても自動的には回復せず、失業者が放置されてしまうと考えます。
- 政府の役割: 経済を自力で回復できない「病人」に例えて、政府の公共事業や中央銀行の金融緩和という「特効薬(政策)」で、積極的に景気を刺激する必要があると考えます。
◯フィリップス曲線との関係
ケインジアンは「短期的な効果」を重視します。
給料や物価がすぐには変化しない短期間であれば、政府が財政政策や金融政策を行うことで、インフレと引き換えに失業率を下げることができるという考えです。
これが「短期のフィリップス曲線(右下がり)」のベースとなる考え方です。
新古典派
新古典派(およびマネタリストと呼ばれるグループ)は、アメリカの経済学者フリードマンらが代表するグループです。
新古典派の主張は、
「市場には自己回復力があるから、政府は余計な介入をするべきではない」
というものです。
- 市場の捉え方: 長い目で見れば、モノの値段や給料は状況に合わせて柔軟に上がったり下がったりする(価格の伸縮性)と考えます。
- 政府の役割: 経済には「自然治癒力」があるため、政府が無理に特効薬(政策)を打っても、長期的には「インフレ(物価上昇)」という副作用だけが残り、効果は消えてしまうと考えます。
◯フィリップス曲線との関係
新古典派は「長期的な結果」を重視します。
インフレが長期化すると、政府が政策を打っても「どうせ物価が上がる」と人々が考える結果、長期的には政策の効果は消えてしまい失業率は自然な水準に戻ってしまいます。
これが「長期のフィリップス曲線(垂直)」のベースとなる考え方です。
【まとめ】2つの派閥の違い
| 項目 | ケインジアン | 新古典派 |
| 重視する期間 | 短期 | 長期 |
| 市場への信頼 | 不完全(価格は硬直的) | 信頼する(価格は伸縮的) |
| 政府の介入 | 積極的に行うべき | 行うべきではない(副作用が出る) |
| フィリップス曲線の形 | 右下がり(トレードオフあり) | 垂直(トレードオフなし) |
まとめ
いかがでしたでしょうか!
フィリップス曲線は、複雑な経済の動きを「物価」と「雇用」という2つの身近な視点から整理してくれる非常に便利なツールです。
- 基本は右下がり: インフレ率(物価上昇)と失業率はトレードオフの関係。失業率を下げようとするとインフレ率は上がる。
- 短期と長期の違い: 右下がりになるのは短期間だけで、長期的には人々がインフレに慣れてしまうため、曲線は「垂直」になり、失業率は自然な水準に戻る(フリードマンの理論)。
ニュースで「日銀の金融政策」や「インフレによる賃上げ」の話題が出たときは、「今の日本のフィリップス曲線はどの位置にあるんだろう?」と考えてみると、経済の裏側がより立体的に見えてくるはずです!
ぜひ、日常のニュースや経済学の試験に役立ててください!










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