投資について調べたり実際に取引を始めてみると「オプション取引」という言葉を目にするかと思います。
ただ、
「オプション取引をするメリットがわからない」
「そもそもオプション価格が適正かわからないので怖くて取引できない」
のように、オプション取引は一部のプロの投資家向けの取引だと感じるかもしれません。
今回は、金融市場で実際にどのようにオプションが使われているのかという「基礎知識」から、オプションの適正価格を導き出す理論「無裁定価格理論(二項モデル)」までわかりやすく解説します。
オプション取引とは?
オプションとは、一言でいえば
「あらかじめ決められた期日(満期日)に、あらかじめ決められた価格(権利行使価格)で、金融商品を買う(または売る)ことができる『権利』」
のことです。
オプション取引の代表的なものに以下の2つがあります。
- コール・オプション: 買う権利
- プット・オプション: 売る権利
ポイントは、あくまで「権利」であるため、自分にとって不利な状況になれば「権利を放棄(キャンセル)できる」という点です。
この便利な権利を手に入れるための参加料・保険料のようなものを「プレミアム(オプション価格)」といいます。
オプションの具体例
カブ君が「1ヶ月後にズッキーニ社株を1万円で買う権利(コール・オプション)」を、プレミアム500円で買ったとします。
・1ヶ月後、ズッキーニ社株が1万5000円に急騰した場合
カブ君はオプション(権利)を行使して1万円で株を買い、すぐに現在の市場で売れば5000円の利益になります。
最初に払ったプレミアム500円を差し引いても、4500円の儲けが手元に残ります。
・1ヶ月後、ズッキーニ社株が7000円に暴落した場合
市場で7000円で買える株を、わざわざ権利を使って1万円で買うと3,000円損をすることになります。
この場合、カブ君は「権利を放棄(キャンセル)」することができ、わざわざ価値が下がった株を購入する必要はありません。
つまり、株価がどれだけ暴落しても、損失は最初に払ったプレミアム(500円)のみに限定されます。
このように、
「利益は無限大、損失は限定的(支払ったプレミアムのみ)」
という性質を持つのがオプション取引の最大の特徴です。
実際にはどのように使われているの?
オプション取引は、企業や投資家が「リスクをコントロールする」ための強力なツールとして日常的に使われています。
① 保険としての役割(リスクヘッジ)
② 少額の資金で大きな利益を狙う(レバレッジ・投機)
③ 企業の業績安定化
① 保険としての役割(リスクヘッジ)
リスクヘッジとしてオプションを活用することが最も本来の目的に近い使われ方です。
例えば、株式を大量に保有している投資家が「株価の暴落リスクに備えたい」と考えた場合、「プット・オプション(売る権利)」を購入します。
もし市場が暴落して株価が下がっても、あらかじめ決めた高い価格で株を「売る権利」を行使できるため、株式の損失をオプションの利益で完全にカバーできます。
株価が「変わらないor上昇する」場合でもプレミアム分しか損しないので、保険として活用できます。
掛け捨ての生命保険や自動車保険をイメージすると理解しやすいかもしれません。
② 少額の資金で大きな利益を狙う(レバレッジ・投機)
オプションは、実際に株を買うよりもはるかに少ない資金(プレミアムのみ)で取引に参加できます。
例えば、米国の巨大IT企業の株が「これから急騰する」と予想した場合、現物株を買う資金がなくてもコール・オプションを買うことで、
1個500円の「10,000円の株を購入する権利」を100個購入(5万円分)
↓
株価が急騰して10,000円から12,000円まで上昇
↓
ここで、「10,000円の株を購入する権利」×100個をオプション市場で他の人に20万円で売却
↓
結果: 20万円 - プレミアム(5万円)= +15万円の利益
このように、少ない元手でも株価上昇の恩恵をフルに受け、大きな利益を得ることができます。
③ 企業の業績安定化
航空会社のように燃料(原油)をたくさん使う企業は、原油の価格が高騰すると企業の業績が一気に悪化してしまいます。
しかも、原油は社会情勢によって価格が大きく変動するので、事前に対策をしておかないと企業の存続にかかってしまいます。
そこで、原油価格が急騰しても一定の価格で買えるコール・オプションをあらかじめ購入しておくことで、もし原油価格が高騰しても以前決めた価格で原油を購入できるので安定した経営を行うことができます。
オプションの適正価格はどう決まる?
では、この便利なオプションの「プレミアム(価格)」は、一体いくらが適正なのでしょうか?
高すぎれば誰も買いませんし、安すぎれば売る側が大損します。
この価格を論理的に導き出したのが「無裁定価格理論(No-Arbitrage Pricing Theory)」です。
裁定取引(アービトラージ)とは、同じ価値のものが異なる価格で売られているときに、「安い方を買って、高い方を売る」ことで、リスクなしで確実に利益を上げる行為です。
例えば、Aというお店ではイチゴが1個150円で売られていて、Bというお店では1個100円で売られていたとします。(イチゴは同じブランドで同品質とします。)
そこで、Bのお店で1個100円のイチゴを購入して他の人に150円で売ることで、ノーリスクで利益を上げることができます。
しかし、金融市場には世界中のプロの投資家やAIなどのプログラムが目を光らせているので、もし少しでもリスクなしで儲かる歪み(裁定機会)があれば、一瞬で取引されて価格は適正な水準に戻ってしまいます。
つまり、
「金融市場には、ノーリスクで儲かる(裁定機会)ことはない(=無裁定)」
というのが金融工学の大前提です。
この「無裁定」の法則を逆手にとると、
「将来、全く同じ利益を生み出す2つの資産(ポートフォリオ)があるなら、現在の価格も完全に一致していなければならない(一物一価の法則)」
という結論が導かれます。
次に、この理論を使ったモデルを紹介します。
二項モデル(Binomial Model)で価格を計算してみよう
先ほどの無裁定価格理論を使って、最もシンプルにオプション価格を計算する手法が「二項モデル」です。
ここでは数式の暗記ではなく、「なぜその価格になるのか」を注意してみてください。
- 現在の株価: 1,000円
- 1年後の株価: 景気が良ければ「1,200円(20%UP)」、悪ければ「800円(20%DOWN)」の2パターンしかないと仮定します(これが二項モデルの名前の由来です)。
- コール・オプションの条件: 1年後に「1,000円で買う権利」
- 無リスク金利: 0%(お金を借りても利息はゼロとします)
ステップ1:1年後のオプションの価値を確認する
ステップ2:株と借金で「オプションのコピー(複製)」を作る
ステップ3:一物一価の法則を適用する
ステップ1:1年後のオプションの価値を確認する
まずは、1年後のオプションの価値を確認しましょう。
・景気が良く、株価が「1,200円」になった場合
株価が1,200円に上がった場合、「1,000円で買う権利」を行使して200円の利益を上げることになるので、このオプションは200円の価値があることになります。
・景気が悪く、株価が「800円」になった場合
株価が800円に下がった場合、「1,000円で買う権利」は放棄することになるので、このオプションは0円の価値になってしまいます。
ステップ2:株と借金で「オプションのコピー(複製)」を作る
ここで、「現在の株の売買」と「銀行からの借金」を組み合わせて、1年後にオプションと全く同じ「200円か0円」という利益を生み出すポートフォリオ(組み合わせ)を作ります。
今回は「200円か0円」の条件に合うように
「株を 0.5株買って、銀行から400円借金する」
というポートフォリオを組みます。
さて、1年後にどうなるか見てみましょう。
・株価が1,200円になった場合
株価が1,000円から1,200円に上がった場合、持っている0.5株の価値は600円(1,200円 × 0.5)になります。
そこから銀行に400円返済すると、手元に残るのは200円になります。
・株価が800円になった場合
株価が1,000円から800円に下がった場合、持っている0.5株の価値は400円(800円 × 0.5)になります。
そこから銀行に400円返済すると、手元に残るのは0円になります。
このように、「0.5株と400円の借金」というポートフォリオは、1年後にコール・オプションと全く同じ結果(200円か0円)になります。
ステップ3:一物一価の法則を適用する
無裁定の原則(一物一価の法則)は「将来の結果が全く同じなら、現在の価格も同じでなければならない」という考えでしたよね。
それでは、先ほど作ったポートフォリオを現在組むためのコストはいくらでしょうか?
「株1,000円を0.5株買う(500円支払う) + 銀行から400円借りる(400円もらう)」
= 100円
つまり、オプションのコピーであるポートフォリオを作るコストが現在100円になるので、
コール・オプションの適正な現在価格(プレミアム)も「100円」でなければならない
というのが、二項モデルの理論になります。
二項モデルは実際の投資で役に立つ?
ここまで二項モデルの仕組みを解説してきましたが、
「理論はなんとなくわかったけど、実際の投資でいちいちこんな計算をするの?」
「オプション取引で利益を出すためには理論の理解は必要?」
こんな疑問を持った方もいるかもしれません。
実際の投資では「自分で計算すること」はない
結論から言うと、実際の投資において、自分で二項モデルの計算を行う必要は一切ありません。
現在の金融市場では、証券会社の取引ツールやアプリが、より高度な理論(ブラック・ショールズ・モデルなど)を用いて、リアルタイムでオプションの適正価格を全自動で計算してくれます。
そのため、電卓を叩いて数式と格闘する必要はありません。
わざわざ理論を学ぶ意義とは?
自分で計算するわけではないのに、なぜ難しい理論を学ぶ必要があるのでしょうか?
それは、
「価格の決まり方の本質を知らなければ、知らずうちに損をする可能性がある」
ためです。
二項モデルを学ぶことで得られるメリットは
ツールが示す「数値の意味」がわかるようになる
ことです。
例えば、二項モデルの理論の土台があれば、ツールやアプリに表示されたプレミアムを見て
「今は市場が上下しやすく、変動幅(ボラティリティ)が異常に高く見積もられているから、今のオプション価格は割高かも」
といった客観的な分析ができるようになります。
また、プレミアムの価格を見て「この商品は値が動きやすいのかも」といった情報を得ることもできます。

現在のオプション価格から逆算された「将来の値動きの激しさ」に対する市場の予測値のことを「インプライド・ボラティリティ(予想変動率)」といいます。
この数値が高いほど、「投資家が今後の大きな価格変動を警戒し、高い保険料を払っている状態」を意味します。
つまり、二項モデルを学ぶことで、「勘で上がるか下がるかを予測する投資」から「論理ベースの投資」へと、勝率を上げる投資が可能になります。
この「二項モデル(無裁定価格理論)」というオプション取引の土台を学習することで、プロの投資家と同じ目線で市場の値付けの歪みを見抜くことができ、自分の資産を「守る・増やす」ための正しい取引ができるようになります。
まとめ
オプション取引は、資産を守るだけでなく少ない資金で大きな利益を得る可能性を秘めた取引です。
また、オプションのプレミアム価格は「市場の金利」と「変動幅」という客観的な事実を組み合わせて計算される(二項モデル)ので、プレミアムの価格を見て「この商品は値動きの可能性がある」「しばらくは値動きしないだろう」といった分析も可能になります。
今回学んだ内容を活かして、ぜひ資産を「守る・増やす」投資を始めてみてはいかがでしょうか!
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