近年、日本では少子高齢化に伴う労働者の減少もあって、就職や転職において「売り手市場」だといわれています。
実は、こうした「雇用」や「失業」の動向は、単に私たちの働きやすさを示すだけでなく、円やドルなどの「為替レート」を大きく上下させる非常に重要な経済指標の一つでもあります。
今回は、経済学における労働市場や失業の仕組みから、為替レートに具体的にどのような影響を与えるのかについて、わかりやすく解説します!
労働市場の仕組み

まずは経済学における「労働市場」について解説します。
労働市場とは、「企業(労働力を買いたい側)」と「家計(働いて対価を得たい側)」が取引を行う市場のことです。
古典派経済学の理論では、
「雇用量は労働市場において[各企業による労働需要の合計]と[各家計による労働供給の合計]が等しくなる点で決定される」
と考えます。
需要と供給が一致したところで「賃金」と「雇用量」が決まるので、古典経済学の考えでは基本的には現在の賃金で働きたいと思っている労働者はすべて雇用されていることになります。
つまり、理論上は「働きたい人は全員働くことができる(完全雇用)」状態が実現します。
しかし、現実の社会には常に一定数の「失業者」が存在しますよね。
それは一体なぜでしょうか?
失業はなぜ発生するの?
経済学では、現実の市場で発生する失業を、その原因によって大きく以下の3つの種類に分類して考えます。
① 自発的失業
② 摩擦的失業
③ 非自発的失業
その他:自然失業率とは?
① 自発的失業

自発的失業は、
「仕事自体はあるものの、もう少し高い賃金でないと働きたくない」
と考える労働者の存在による失業です。
仕事はあるが現行の賃金水準では働くつもりがないため、個人の意思による「自発的」な失業と呼ばれます。
たとえば、現在の賃金に納得せず、より高い賃金や待遇を求めて職探しをしている状態であれば、統計的には失業者としてカウントされます。
「現行の賃金で働きたい人はすべて雇用されている」と考える古典派の理論においては、この失業は「労働者の自由意思によるもの」になるので社会的にそれほど大きな問題とはみなされません。
② 摩擦的失業

摩擦的失業は、
「労働者が転職する際に、新しい就職先が決まるまで一時的に職を失った状態」
のことです。
仮にどこかでその労働者を必要とする仕事があったとしても、通常、そのような仕事をすぐに見つけることは難しいのでこのような失業が発生します。
労働者が自分に合った職場を探すための期間や、企業と求職者の情報が完全に一致しない(情報のミスマッチ)ために起こる構造上避けられない失業であり、古典派の雇用理論でもその存在を認めることが多いです。
③ 非自発的失業

非自発的失業は、イギリスの経済学者ケインズによって提唱された概念です。
ケインズ経済学では、
「賃金が下方硬直的(一定水準から下がりにくい性質)であるために労働市場に超過供給が起こり、現行の賃金で働く意思があるのに働けない労働者が生み出される」
と考えます。
不況期に企業が採用を絞ることで発生する失業などがこれに該当します。
その他:自然失業率とは?
上記の①自発的失業と②摩擦的失業は「労働者の自由意思や一時的なもの」であるため、古典派の雇用理論においてもその存在を認めることが多く、社会的にさほど大きな問題とはみなされません。
このように、労働市場において需要と供給が一致する状況のもとでも依然として存在する失業率を「自然失業率」と呼びます。
一方で、景気後退により発生する③非自発的失業は、「働きたいのに働く場所がない」失業者が発生してしまうので、政府や中央銀行が経済政策によって解決すべき重要な課題となります。
なぜ「雇用者数」や「失業率」が為替レートに影響するの?

では、こうした労働市場の状況が、なぜ為替レートに影響を与えるのでしょうか。
失業率が低くて正規雇用者数が増加している状態は、すなわち経済が好調であることを意味しますよね。
この場合、人々が安定した収入を得ることで消費が活発になり、モノやサービスへの需要が高まります。
経済学には、インフレ率と失業率の間に成立する右下がりの関係を示す「フィリップス曲線」という概念があります。
これは、失業率を低くしようとすればインフレ率が高まり、逆にインフレ率を抑制しようとすれば失業率が高まるというトレードオフの関係が存在することを示しています。
- 雇用が安定している(失業率が低い)・・・インフレ率が高まる
- 雇用が不安定(失業率が高い)・・・インフレ率が低くなる
このように、労働市場とインフレは大きく結びついています。

インフレ率が高まると中央銀行はインフレ抑制のため金利を上げ、反対にインフレ率がマイナス(デフレ状態)になると中央銀行は金利を下げます。
そして、
- 金利が上がる → 通貨が買われる(通貨高)
- 金利が下がる → 通貨が売られる(通貨安)
のように、通貨の売買(トレード)が活発化します。
つまり、労働市場の状況によっては中央銀行が金利を操作する可能性が高まり、それに連動して為替レートも大きく変動することになります。
【具体例】アメリカの雇用統計が円・ドル相場に与える影響
上記のメカニズムを踏まえて、世界で最も注目される経済指標の一つである
「アメリカの雇用統計(非農業部門雇用者数・失業率など)」
が発表された場合に、円・ドル相場が具体的にどのように変化するのかを見てみましょう。
パターンA:雇用者数が大きく増加・失業率が低下した場合

アメリカの正規雇用者数などが市場の事前予想を大きく上回って増加し、失業率が低下したとします。
市場は
「アメリカの労働市場は安定している。労働者の賃金が上がり、インフレが加速する可能性がある」
と考えますよね。
さらに、「FRBはインフレを警戒して、さらに利上げを行うかもしれない(または高金利を長く維持する)」という予測が広がります。
このように、労働市場の安定によるアメリカの金利上昇を期待して、投資家は低金利の日本円を売り、高金利のドルを買って運用しようとします。
その結果、急激な「円安・ドル高」が進行します。
パターンB:雇用者数が減少・失業率が上昇した場合

逆に、正規雇用者数が予想を下回る、あるいは減少し、失業率が悪化していることが判明したとします。
市場は
「アメリカの労働市場は悪化している。インフレの圧力も弱まっているかもしれない」
と考えます。
さらに、「FRBは景気を下支えするために、近いうちに利下げを行う可能性がある」という予測が広がります。
このように、労働市場の悪化によってアメリカの金利が下落するという観測から、ドルで資産を運用する魅力が薄れてしまい、投資家はドルを売って資金を引き揚げようとします。
その結果、ドルが売られて円が買われる「円高・ドル安」へと為替レートが振れることになります。
まとめ
いかがでしたでしょうか!
労働市場のデータである「雇用者数」や「失業率」は、単に「何人が働いているか」を示すだけの統計ではなく、中央銀行が「金利」をどう動かすかを世界中の投資家が予測するための重要な指標でもあります。
- 雇用が強い → 利上げ観測が高まる → 通貨が買われる(通貨高)
- 雇用が弱い → 利下げ観測が高まる → 通貨が売られる(通貨安)
このように、「雇用」と「失業」は単なる経済学の論点だけでなく、投資をする際の知識(武器)としても役に立ちます。
経済学の学習はもちろん、今後の資産運用や経済ニュースのチェックに活用してみてはいかがでしょうか!







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