「〇〇選手が移籍金100億円でビッグクラブへ移籍!」
近年のサッカーのニュースを見ていると、100億円を超える金額が頻繁に飛びかっています。
しかし、ここで
「いくらビッグクラブでも、100億円もの大金を一度に払って赤字にならないの?」
という疑問を持つ人も多いのではないでしょうか?
実は、クラブの決算において移籍金は「一度に全額が計上される」わけではなく、企業の決算でも使われる「減価償却」の考えを用いて分割で計上されます。
今回は、欧州サッカー界の厳格な財務ルールである「FFP」の仕組みと、移籍金にまつわる会計処理の仕組みを、経済・会計の視点から初心者にもわかりやすく解説します!
そもそも「FFP(ファイナンシャル・フェアプレー)」とは?

そもそも「FFPとはどのような制度なのか」「なぜこの制度が誕生したのか」について詳しくみていきましょう!
2000年代のヨーロッパサッカー界は、現在とは異なり「どんぶり勘定」が許される時代でした。
クラブが稼いだお金(収益)をはるかに上回る金額で選手をかき集めるなど、慢性的な赤字を垂れ流すクラブが蔓延していました。
しかし、無理な投資が続くと、いつか限界を迎えてしまいます。
実際にこの時代、リーズ・ユナイテッド(イングランド)はチャンピオンズリーグでベスト4に入るほどの強豪でしたが、CL出場ありきの過剰投資を行い続けた結果、巨額の負債を抱えて経営破綻して3部リーグまで転落してしまいました。
さらにイタリアでも、フィオレンティーナやパルマ、ナポリといった世界的な名門クラブが経営破綻(倒産)に追い込まれて1度クラブが消滅してしまい、アマチュアリーグからの再出発を余儀なくされるという衝撃的な事件が起きています。
こうした「無謀な経営による名門クラブの経営破綻」をこれ以上出さないため、UEFA(欧州サッカー連盟)がメスを入れ、強制的にクラブの財政を健全化させるために導入した厳格なルールが、FFP(ファイナンシャル・フェアプレー)です。
FFPの理念は非常にシンプルで、
「自分たちで稼いだ収益の範囲内でクラブを運営しましょう」
というものです。

この「収益」と「費用」のバランスを保ち、大幅な赤字を出してはいけないというのがルールの根本です。(※イングランドのプレミアリーグでは「PSR」という名称で似たルールが運用されていますが、基本的な考え方は同じです)
つまり、FFPやPSRは『1円でも赤字になればアウト』というわけではありません。
直近3年間のトータルで計算され、オーナーが自腹で赤字分を補填することを条件に、一定額(プレミアリーグの場合は3年間で約1億500万ポンド)までの赤字は許容される仕組みになっています。
人間が減価償却される?移籍金の「会計上の仕組み」
FFPという「稼いだ以上は使えない」ルールがあるなら、なおさら100億円の移籍金は現実的ではありませんよね。
ここで登場するのが、会計の基本ルールである「減価償却(げんかしょうきゃく)」です。
減価償却されるのは選手ではなく「登録権」
「人間を減価償却するなんて、どういうこと?」と驚かれるかもしれません。
もちろん、選手という「人間」そのものが会社の資産として計上されるわけではありません。
クラブが移籍金を払って手に入れているのは、
「その選手を自クラブでプレーさせる権利(選手登録権)」
です。
会計上、この権利はソフトウェアや特許権などと同じ「無形固定資産」として扱われます。
形はないけれど価値がある資産として帳簿に載り、それを契約年数に応じて少しずつ費用にしていきます(償却)。
移籍金は「契約年数」で分割費用になる
具体的に数字を見てみましょう。
あるクラブが移籍金100億円で選手を獲得し、「5年契約」を結んだとします。
この場合、100億円全額がその年(選手を獲得した年)の費用になるわけではありません。
100億円を契約年数の5年で割り、毎年20億円ずつを「費用」として計上していくことになります。
| 年度 | 帳簿上の費用 | 選手の資産価値(帳簿上の残存価値) |
| 獲得時 | – | 100億円 |
| 1年目終了時 | 20億円 | 80億円 |
| 2年目終了時 | 20億円 | 60億円 |
| 3年目終了時 | 20億円 | 40億円 |
| 4年目終了時 | 20億円 | 20億円 |
| 5年目終了時 | 20億円 | 0円(契約満了) |
このように、移籍金を「契約年数で分割払い(帳簿上の話)」にすることで、財務ルールを徹底しながらも選手が移籍しやすい環境を維持しています。
FFPがサッカー界に与えた影響とは
ここまでの解説を聞くと
「FFPはクラブの経営破綻を防ぐための素晴らしい制度」
のように感じますよね。
しかし、その一方でヨーロッパサッカー界に「深刻な負の影響」ももたらしました。
- 資金力格差の固定化(セリエAやラ・リーガの苦境)
- 投資先としての魅力が低下
- 主力放出による「負のスパイラル」
資金力格差の固定化(セリエAやラ・リーガの苦境)

FFPの基本は「自分たちで稼いだ収益の範囲内でやりくりする」ことです。
これは一見公平に見えますが、裏を返せば
「もともと収益が少ないクラブは、いつまで経ってもお金を使えない=格差が大きくなる」
ということを意味します。
例えば、圧倒的な放映権料を稼ぐプレミアリーグ(イングランド)のクラブは放映権や広告による収入が大きいので、次々と大型補強を行うことができます。(リーグの下位クラブですら補強資金が潤沢です。)
一方で、相対的に放映権や広告の収益が低いセリエA(イタリア)やラ・リーガ(スペイン)のクラブは十分な補強資金を計上できず、補強どころか毎年のように主力選手を放出しなければならない状況になっています。
このように、FFPの登場によって、リーグ間における「持てる者(プレミアリーグ)」と「持たざる者(その他リーグ)」の格差が大きく広がってしまいました。

ラ・リーガの優勝賞金よりも、プレミアリーグ降格チームが受け取る「降格救済金」の方が金額が多いという現象が起きています。
投資先としての魅力が低下

さらに、この財務ルールは外部からの「投資」を阻害してしまいます。
かつてのチェルシーやマンチェスター・シティように
「大富豪がクラブを買収し、個人の資産でスター選手をかき集めて一気に強豪へ押し上げる」
という夢のあるストーリーは、FFPの下では実現できません。
つまり、オーナーにどれほど莫大な資金があっても、クラブ自身の営業収益が少なければルール違反になるため、満足な補強ができなくなってしまいます。
結果として、「巨額の資金で買収してもチームを強くできない(投資リターンが見込めない)」と判断され、投資家たちは制限の厳しいリーグのクラブを「投資先」として魅力的だと感じなくなってしまいました。
主力放出による「負のスパイラル」

そして最も悲惨なのが、ルールの制限をクリアするための「主力の売却」です。
赤字を減らしてFFP違反のペナルティを免れるため、資金難のクラブは泣く泣くチームの主力選手や生え抜きのスター選手を売却し、帳簿の数字を合わせなければなりません。
しかし、主力を放出すれば当然チームの戦力は落ちるので、リーグでの順位も下がります。
順位が下がれば賞金や放映権料が減り、クラブの魅力が落ちてスポンサーも離れていくため、翌年は「収益が減った分、さらに選手を売らなければならない」という完全な負のスパイラルに陥ってしまうのです。
特にFFPを厳しく運用しているラ・リーガでは、かつてCL(チャンピオンズ・リーグ)やEL(ヨーロッパ・リーグ)で活躍していたバレンシアやセビージャといったクラブですらFFPによって主力を大量に放出せざるを得なくなり、現在は大きく順位を落としてしまっています。(ちょっと順位を落とすどころか、残留争いに巻き込まれるシーズンも増えています。)
このように、かつてヨーロッパで活躍していた強豪クラブですらローン移籍やレンタル移籍でなんとか選手のやりくりをしているのが現状です。

移籍金や選手の給料がFFPの費用に含まれているので、「完全移籍」で選手を獲得することすら難しくなっています。
【事例】チェルシーが編み出した「8年契約」
この「会計上のルール」を逆手にとったのが、プレミアリーグのビッグクラブであるチェルシーです。
2022-2023シーズンに新しいオーナーを迎えたチェルシーは、数百億円規模という前代未聞の補強を行いました。
いくらプレミアリーグの収入が多いといっても、普通なら即座にFFP違反(赤字超過)になる額です。
しかしチェルシーは、獲得した若手選手たちと「7年〜8年」という異例の超長期契約を結ぶことで、FFPを乗り越えました。
この超長期契約がどのような効果をもたらすのか、例を使って確認しましょう。
例えば、スター選手を100億円の移籍金で獲得したとします。

4年契約の場合、「100億円 ÷ 4年 = 25億円」と、FFPの費用に25億円が計上されることになりますよね。

一方で、8年契約の場合、「100億円 ÷ 8年 = 12.5億円」と、4年契約の時の半額である12.5億円しか費用計上されません。
- 4年契約の場合:毎年の費用は 25億円
- 8年契約の場合:毎年の費用は 12.5億円
このように、選手と超長期契約を結んで帳簿上の年間の費用を極限まで小さくすることで、FFPの網の目をすり抜けながらスター選手を大量に獲得しました。
このチェルシーの「超長期契約」というルールの抜け穴に対して、UEFAも黙ってはいませんでした。
現在では
「選手と何年契約を結ぶことは可能だが、移籍金の減価償却(分割計上)は最大5年まで」
というルールに変更され、この抜け穴は完全に塞がれました。
まとめ
いかがでしたでしょうか!
今回は、サッカー界のお金のルールである「FFP」と、移籍金における「減価償却」の仕組みについて解説しました。
サッカー界の事例からもわかる通り、プロスポーツクラブ・一般企業を問わず、組織にとって「会計」は非常に重要な要素になります。
なぜなら、オーナーや外部の投資家たちは、
「このクラブ(企業)に資金を投じてリターンが得られるか」
を、すべて決算書などの会計情報をもとに判断しているからです。
利益や赤字の仕組みを正しく理解していなければ、「適切な経営判断」や「リターンの見込める投資」を行うことはできません。
つまり、会計の知識は経理の担当者だけでなく、将来的に「経営に携わりたい人」や「株式などの投資に興味がある人」にとっても役に立つ学問ということになります。
「スポーツビジネスや企業の経営に興味がある」
「株式投資を通じてオーナーになってみたい!」
という方は、その第一歩として、ぜひ「簿記・会計」の学習を始めてみてはいかがでしょうか!






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