「経理以外で、わざわざ簿記や会計を学習する意味はあるの?」
勉強を進める中で、このような疑問を持ったことがある人も多いのではないでしょうか。
確かに、「簿記」や「会計」と聞くと「経理担当者向けの専門スキル」というイメージが強く、経理に関係がない人にとっては学習する意義を感じにくいかもしれません。
しかし、簿記や会計は決して「経理向けのちょっとした試験」を突破するためだけの知識ではありません。
実は、簿記・会計の知識は新NISAなど株式投資を始める際に「強力な武器」になります。
そこで今回は、簿記・会計の知識を活用した「より良い投資先を見つける方法」をわかりやすく解説します。
これから投資を本格的に始めたいと考えている方は、ぜひ参考にしてください。
株式投資の基本知識
- 株式投資の大原則とは
- 株式投資で利益が出る仕組み
- 会社が株を発行する理由
株式投資の大原則とは
株で利益を出すための最大の基本は、「いい株(会社)を、安く買う」ことです。
とても単純に思えるかもしれませんが、株式投資の本質はこれに尽きると言っても過言ではありません。
実は、投資で利益を出す仕組みは、私たちが日常で行っている買い物と全く同じです。
株の仕組みを「トレーディングカード」を使って解説します。
トレカの価格は、一般的に「キラキラ光るような特別なレアカードかどうか」が大きく影響します。
誰もが欲しがるような人気のレアカードは価格が高く簡単に価値が下がりにくいという安心感がある一方で、そこからさらに価格が何倍にも跳ね上がることはあまりありません。
そして、「レアカードかどうか」の他にも「対戦環境の変化(現在のルールでどのカードが強いか)」によって大きく変動します。
現在1枚数十円で取引されている安いノーマルカードでも、「新しいルールの導入」や「相性の良い新カード」の登場によって対戦環境が変わると、突然バトルに必須の強力なカードとなって一気に数千円の価値に大化けすることがあります。
しかし、「今大会で流行っているから」「みんなが欲しがっているから」という理由だけで実力以上のプレミア価格がついている旬のカードを高値で購入してしまうと、環境が変わって流行が去ったときに大きな損失を抱えてしまいます。
株式投資もこれと全く同じです。
人気の高い企業の株は「買値」「売値」どちらも高く「価値は高いが手に入りにくい」状況な一方で、世の中のトレンドや技術革新によって、今はあまり人気がない企業の株が将来大きな価値を持つようになる可能性もあります。
そして、「みんなが買っているから」「ニュースで話題の企業だから」という理由だけで実力以上の高値がついている株を買ってしまうと、後から株価が適正な価格に戻ったときに大きな損失を抱えることになります。
つまり、株を購入する際には、目の前でついている「現在の株価」と、「企業の業績・将来性」のバランスを冷静に見極めることが不可欠になります。
株式投資で利益が出る仕組み
株式投資で得られる利益は、大きく分けて2つのパターンがあります。
- 値上がり益(キャピタルゲイン):株を買ったときよりも高い値段で売って得る利益
- 配当金:会社が利益を出したときに、利益の一部を株主に分配するお金
ひとつは株の「値上がり益(キャピタルゲイン)」です。
買ったときの値段(株価)よりも高い値段で売ることで、その差額が儲けとなります。
もうひとつは「配当金」による利益です。
会社が事業で稼いだ利益の中から、経費や内部留保(会社に蓄えられるお金)を差し引いて残ったお金の一部を、株主が分け前として受け取ることができます。
権利確定日に株を保有しているだけで受け取れるため、銀行の預金利息のように安定した収益源となります。
会社が株を発行する理由
そもそも、なぜ会社は株を発行するのでしょうか。
企業は「事業の拡大」や「新しい製品の開発」など、日々の活動で莫大な資金が必要になります。
これらの資金調達をすべて銀行から借金して賄うと、「借金+利息の返済」と返済する額が大きくなってしまいますよね。
そのような時に行われるのが株の発行です。
資金調達の手段として株式を発行するメリットは以下のようになります。
- 借金をせずに資金調達できる
- 返済の必要がない
- 財務の健全性が向上する
つまり、仮に会社が倒産しても、会社は株主に対して責任を取る必要がないのです。
これだけ聞くと会社にとって非常に都合が良く見えますが、デメリットもあります。
株を発行しすぎると、会社側が持っている株数の割合が減ってしまい、会社の経営権(オーナー権)を失う危険性があるのです。
また、株式数が増え過ぎてしまうと、会社の利益を受け取る権利(配当金)も新しい株主に流れてしまいます。
決算書から「優良株」を見つけるための指標を紹介
株式投資で「優良株」を見つけ出すには、決算書から読み取れるいくつかの重要な指標(数字)をチェックすることが欠かせません。
ここでは、投資家が必ず確認する5つの代表的な指標を、「企業の稼ぐ力」と「株価の割安度」の2つの視点に分けてわかりやすく解説します。
- ROE(自己資本利益率)
- ROA(総資産利益率)
- 営業利益率
まずは、会社がどれだけ効率よく、本業でしっかりと利益を出しているかを確認するための指標を紹介します。
ROE(自己資本利益率)

ROE(自己資本利益率)は
「株主から集めたお金(自己資本)を使って、どれだけ効率よく利益を生み出したか」
を示す指標です。
投資家にとって最も重要視される指標の一つで、この数値が高いほど「経営が上手な会社」と評価されます。
一般的に10%以上あれば、効率よく稼いでいる優良企業と言えます。
ROA(総資産利益率)

ROA(総資産利益率)は
「会社が持っているすべての資産(借金も含む)を使って、どれだけ効率よく利益を生み出したか」
を示す指標です。
ROEが高くても、実は多額の借金をして無理に利益を出しているだけというケースもありますが、ROAを一緒に確認することで、借金に頼りすぎていないかを見抜くことができます。
一般的に5%以上が優良企業の目安とされています。
営業利益率

営業利益率は
「会社の売上のうち、本業の儲け(営業利益)がどれくらいの割合を占めているか」
を示す指標です。
商品にブランド力があったり、コスト削減が徹底されている会社は、この利益率が高くなります。
業種によって異なりますが、一般的に10%以上あれば、本業で稼ぐ力が非常に強いビジネスモデルを持っていると判断できます。
- PER(株価収益率)
- PBR(株価純資産倍率)
どんなに稼ぐ力がある優良企業でも、株価が高くなりすぎている時に買うと損をしてしまいます。今の株価が適正かどうかを測る指標です。
PER(株価収益率)

PER(株価収益率)は
「今の株価が、1株あたりの利益に対して何倍まで買われているか」
を示す指標です。
言い換えると「今の利益が続いた場合、何年で投資金額を回収できるか」を表しています。
株式市場の平均はおおむね15倍程度とされており、これより低いと
「実力に対して株価が安い(割安)」
と判断されます。
計算には、終わった実績ではなく「今期の予想利益」を使います。
PBR(株価純資産倍率)

PBR(株価純資産倍率)は、
「今の株価が、1株あたりの純資産に対して何倍まで買われているか」
を示す指標です。
簿記を学んでいる方なら、純資産が「総資産から負債を差し引いた残り」であることはすぐにわかりますよね。
株式投資の世界では、この純資産を
「会社が今すぐ全財産を換金して借金を全て返済した際、最終的に株主の手元に残るお金(=解散価値)」
として捉えます。
そのため、PBRが1倍未満の状態は、会社の資産価値よりも株価の方が安く売られている「バーゲンセール状態」を意味します。
PBR1倍のラインは、これ以上は下がりにくいという底値の目安としても機能します。
【実践】財務データから「隠れた優良株」を自分で見つける
ここからは、先ほど学習した5つの指標を使って「自分で決算書を見て判断するプロセス」を確認してみましょう。
以下では、企業A社、B社、C社の財務データ(決算書から抜粋した数値)を比較して「どの株を購入するのが良いか」を判断していきます。
| チェック項目 | A社(話題のIT企業) | B社(老舗の部品メーカー) | C社(不動産の関連企業) |
| 株価 | 3,000円 | 1,000円 | 1,500円 |
| 発行済株式数 | 1,000万株 | 1,000万株 | 1,000万株 |
| 売上高 | 100億円 | 100億円 | 100億円 |
| 営業利益 | 5億円 | 15億円 | 11億円 |
| 経常利益(予想) | 5億円 | 15億円 | 10億円 |
| 純利益(予想) | 3億円 | 10億円 | 15億円 |
| 総資産 | 50億円 | 150億円 | 120億円 |
| 純資産 | 40億円 | 100億円 | 80億円 |
一見すると、株価が高く話題性のあるA社や、純利益の額が最も大きいC社が良さそうに見えるかもしれません。
では、学んだ指標を実際に計算して、各社の本当の姿を分析してみましょう。
ステップ1:企業の「稼ぐ力」を計算しよう
ステップ2:企業の「割安度」を計算しよう
ステップ3:会計知識で「だまし」を見抜く
ステップ1:企業の「稼ぐ力」を計算しよう
まずは、会社が効率よく本業で利益を出しているかを確認するための「営業利益率」「ROA」「ROE」を計算します。
① 営業利益率
計算式は「営業利益 ÷ 売上高 × 100」です。
- A社: 5億円 ÷ 100億円 = 5%
- B社: 15億円 ÷ 100億円 = 15%
- C社: 11億円 ÷ 100億円 = 11%
② ROA(総資産利益率)
計算式は「純利益(予想) ÷ 総資産 × 100」です。
- A社: 3億円 ÷ 50億円 = 6%
- B社: 10億円 ÷ 150億円 = 約6.6%
- C社: 15億円 ÷ 120億円 = 12.5%
③ ROE(自己資本利益率)
計算式は「純利益(予想) ÷ 純資産 × 100」です。
- A社: 3億円 ÷ 40億円 = 7.5%
- B社: 10億円 ÷ 100億円 = 10%
- C社: 15億円 ÷ 80億円 = 18.7%
【稼ぐ力の分析】
一般的に、
- 営業利益率・・・10%以上
- ROA・・・5%以上
- ROE・・・10%以上
あれば優良企業と判断できます。
計算の結果を見てみると、A社は話題性の割に営業利益率やROEが低く、効率よく稼げていないことがわかります。
この時点でA社は投資候補から外すのが賢明であると考えられます。
一方で、B社とC社は基準をクリアしており、特にC社はROEとROAの数値が高いことがわかりました。
ステップ2:企業の「割安度」を計算しよう
次に、稼ぐ力が確認できたB社とC社について、今の株価がお買い得かどうかを計算します。
① 1株あたりの利益とPER(株価収益率)
PERを求めるには、まず「1株あたりの利益」を計算します。
計算式は「純利益(予想) ÷ 発行済株式数」です。
- B社: 10億円 ÷ 1000万株 = 100円
- C社: 15億円 ÷ 1000万株 = 150円
これを踏まえて、PERを計算します。計算式は「株価 ÷ 1株あたりの利益」です。
- B社: 1000円 ÷ 100円 = 10倍
- C社: 1500円 ÷ 150円 = 10倍
② 1株あたりの純資産とPBR(株価純資産倍率)
同様に、PBRを求めるために「1株あたりの純資産」を計算します。
計算式は「純資産 ÷ 発行済株式数」です。
- B社: 100億円 ÷ 1000万株 = 1000円
- C社: 80億円 ÷ 1000万株 = 800円
PBRを計算します。計算式は「株価 ÷ 1株あたりの純資産」です。
- B社: 1000円 ÷ 1000円 = 1.0倍
- C社: 1500円 ÷ 800円 = 約1.8倍
【割安度の分析】
PERは株式市場の平均的な水準がおおむね15倍程度とされており、B社もC社も10倍で同じように割安に見えます。
しかし、PBRを比較すると違いが出ます。
PBRは会社が解散した際に株主に配分される「解散価値」を示します。
PBR1倍未満の状態は非常に割安であり、PBR1倍のラインは株価の下支えとして機能します。
この観点から見ると、PBRが1.0倍であるB社の方が、より底値が固く割安と言えます。
ステップ3:会計知識で「だまし」を見抜く
ここでは、会計の知識を活かしていきます。
C社の「経常利益」と「純利益」の数字をもう一度よく見てみましょう。
経常利益が10億円なのに、純利益が15億円もありますよね。
通常、特別損益がない場合、純利益は経常利益の6割程度に落ち着きます。
この比率から大きくズレているC社は、一時的な不動産の売却益など(特別利益)が含まれており、純利益やROEが実力以上に大きく計算されている状態にあります。
【本来の実力で各種指標を再計算】
会計知識を活用し、C社の純利益の実力値を算出し直し、本来のROEやPERを再計算してみましょう。
経常利益10億円の6割、つまり本来の実力(純利益)は「6億円」と推定できます。
- C社の本来のROE: 6億円 ÷ 80億円 × 100 = 7.5%
- C社の本来の1株あたりの利益: 6億円 ÷ 1000万株 = 60円
- C社の本来のPER: 1500円 ÷ 60円 = 25倍
最終結論
財務諸表から指標を計算すると、C社はROEが18.7%と高くてPERも10倍で割安に見えましたが、指標の他に会計知識を使って実力値を算出し直すと、実はROE7.5%と稼ぐ力はそこまで高くなく、PERも25倍という割高な株であることが判明しました。
したがって、「営業利益率」「ROA」「ROE」すべてで基準を満たして「稼ぐ力」があって、かつ実力ベースでのPER・PBRともに割安な「B社」の株を購入する方が良いという論理的な結論を導き出すことができます。
このように、自ら数値を比較・分析することで、市場の雰囲気に流されることなく「自分に合った優良株」を発掘できる可能性が高まります。
また、今回の簿記・会計の他にも「統計学×金融」である金融工学の知識も投資に活かすことができます。詳しくは以下の記事をご覧ください!
投資を始めるための具体的なステップ
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まとめ
いかがでしたでしょうか!
会計の知識を活用すれば、「なんとなく上がりそう」という感覚や市場の雰囲気に流されることなく、決算の数字を用いて論理的かつ冷静に企業価値を測ることができます。
優良な企業を見つけ出し、PERやPBRで割安なタイミングを狙うバリュー投資は、会計を学ぶ方にとって最も親和性の高い投資手法です。
まずは身近な企業や気になる業界の決算書をチェックしてみて、資産運用の第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。








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