- 失業U
- 労働需要曲線
- 労働供給曲線
- 古典派の労働市場
- ケインジアンの労働市場
- マネタリストの貨幣錯覚モデル
- UVアプローチ
失業について
失業の定義
労働市場は、
「企業が生産要素として労働力を需要し、家計が所得を得るために労働力を供給する場」
です。
そして失業とは、この労働市場において「労働の供給」が「労働の需要」を上回っている超過供給の状態(雇用不足)を指します。
家計による労働供給量をN_S、企業による労働需要量をN_Dとすると、失業率Uは以下の数式で定義されます。

失業の分類
ケインズは、失業をその発生メカニズムから以下の3つに分類しました。
- 自発的失業: 現在の賃金水準のもとで、自らの意思で「働かない」ことを選択している状態です。(例:もっと高い給料を求めてあえて就業しない場合など)
- 非自発的失業: 現在の賃金水準のもとで「働く意思がある」にもかかわらず、経済全体の需要不足が原因で企業側の労働需要が少なく、就業できない状態です。
- 摩擦的失業: 転職による移動期間や季節的要因など、情報の行き違いによって生じる一時的な失業状態です。
その他の失業に関する用語
上記のケインズの用語以外にも、以下の用語が用いられます。
- 完全失業率: 日本の労働統計で用いられる基本的な指標です。15歳以上の「労働力人口(就業者+完全失業者)」に占める完全失業者の割合を指します。
- 需要不足失業: 経済全体の有効需要が不足しているために発生する失業で、ケインズの「非自発的失業」とほぼ同じ意味です。
- 構造的失業: 企業の求める人材と求職者のスキル・条件が一致しない「ミスマッチ」によって起こる失業です。摩擦的失業と厳密な区別が難しいため、一括りにされることもあります。
- 潜在的失業: 企業に雇用されてはいるものの、生産性が極めて低く事実上失業状態にあることを指します。終身雇用など硬直的な労働市場で発生しやすい傾向があります。
古典派の労働市場観
労働需要
古典派は、代表的企業が「利潤を最大化する」ように最適な労働需要量(雇用量)を決定すると考えます。
企業の利潤関数(π)を、

- P:生産物価格
- Y = f(N、K):マクロ生産関数(Nは労働量)
- w:名目賃金率
- Y:国民所得
- K:資本
- r:資本レンタル
とおきます。
企業が利潤を最大化する条件は、この式を労働量Nで偏微分してゼロになる点です。

これを変形すると

になります。
- MPL:労働の限界生産性(労働者を1人増やしたときに増える生産量)
- w/P:実質賃金率
この式は、「労働の限界生産性が実質賃金率に等しくなる水準に、労働需要が決定される」ことを意味しており、ケインズはこれを「古典派の第1公準」と呼びました。

古典派の第1公準:
企業の労働需要は労働の限界生産性=実質賃金率を満たすように決定させる。
(ケインズは古典派の第1公準の妥当性を肯定)
通常の生産関数では、労働者を増やすほど限界生産性は逓減(低下)します。
そのため、企業が高い実質賃金率に直面した場合、それに見合う高い生産性を持つ労働者しか雇えなくなるため、労働需要を減少させます。
結果として、企業の労働需要曲線(N_D)は実質賃金率の減少関数(右下がりのグラフ)となります。

労働供給
代表的家計(労働者)は、1日24時間を「労働(N_S)」と「余暇(L)」に振り分け、自身の効用(満足度)を最大化するように行動します。
24 = N_S + L
家計は労働によって得た所得(wN_S)をすべて財の消費(価格P、消費量x)に支出すると仮定すると、予算制約式は
Px = w(24 ー L)
となり、以下のように変形できます。

この式において、実質賃金率(w/P)は「余暇1時間を楽しむために諦めなければならない財の量」、すなわち「余暇の機会費用(相対価格)」を表しています。
家計の効用が最大化されるのは、無差別曲線と予算制約線が接する点です。
このとき、「余暇と財の限界代替率(MRS)」が「実質賃金率(w/P)」と等しくなります。

この条件は、「労働の限界不効用(余暇の限界効用)が、実質賃金率から得る限界効用に等しくなるように労働供給が決定される」ことを意味し、ケインズはこれを「古典派の第2公準」と呼びました。

古典派の第2公準:
家計による労働供給は、労働の限界不効用(余暇の限界効用)が実質賃金率から得る限界効用に等しくなるようにきまる。
(ケインズは古典派の第2公準の妥当性は否定)
実質賃金率(w/P)が上昇すると、余暇の価格が高くなるため余暇を減らして労働を増やす「代替効果」が働きます(所得効果を上回ると仮定)。
したがって、家計の労働供給曲線(N_S)は実質賃金率の増加関数(右上がりのグラフ)となります。

労働市場の均衡

古典派の労働市場では、右下がりの労働需要曲線(N_D)と右上がりの労働供給曲線(N_S)の交点で均衡します。

古典派の労働市場観:実質賃金率の調整によって、常に、労働需要と労働供給が一致する水準で労働市場は均衡する。(完全雇用)
*ただし、労働市場において経済主体は実質賃金率に依存して行動すると仮定されていますが、実際に調整されるのは名目賃金率です。
古典派は、労働市場も他の財と同様に「価格調整メカニズム(市場メカニズム)」が完全に機能すると考えます。
もし労働の超過供給(失業)が発生しても、すぐに名目賃金率(w)が下落し、実質賃金率(w/P)が調整されることで、必ず需要と供給が一致する均衡点に引き戻されます。
この均衡点(交点)では、その実質賃金率のもとで「働く意思のある人(労働供給)」はすべて「企業に雇用(労働需要)」されています。
したがって、古典派の理論においてケインズの「非自発的失業」は一切存在せず、労働市場は
常に「完全雇用」が自律的に維持される
という結論が導かれます(存在する失業は自発的失業と摩擦的失業のみです)。
ケインジアンの労働市場
古典派に対する見解
先ほど解説した通り、ケインズは、古典派の労働市場理論のうち、
- 企業側の行動原理である第1公準(労働需要は実質賃金率に依存する)→肯定
- 家計側の行動原理である第2公準(労働供給も実質賃金率に依存する)→明確に否定
と表現しました。
また、ケインズは、
「現実の労働者は「実質賃金率(w/P)」ではなく「貨幣賃金率(名目賃金率w)」に依存して労働供給を決定する」
と考えました。
労働組合の団体交渉や雇用契約の性質上、労働者は物価上昇による実質賃金の低下には抵抗しない一方で、名目賃金率の直接的な切り下げには強く抵抗します。
この性質により、名目賃金率には、ある一定水準(w̄)より下には下がらないという「下方硬直性」が存在します。
したがって、ケインジアンの労働供給曲線は、名目賃金率w̄の水準で水平になり、完全雇用水準に達した後に右上がりとなる特殊な形状を描きます。

労働市場の均衡
古典派の世界では、賃金が柔軟に変動するため常に需要と供給が一致(完全雇用)しますが、ケインジアンの世界では名目賃金率の下方硬直性(w̄)が市場の価格調整メカニズムを阻害します。
不況などで企業の労働需要が減少(労働需要曲線が左にシフト)したとします。

古典派の考えの場合、賃金が下がって再び需要と労働が均衡します。

一方で、ケインジアンの労働市場の場合、賃金はw̄から下がりません。(労働供給曲線が一部水平になる)
このとき、労働市場では「w̄の賃金で働きたいと希望する労働供給量(N_S)」に対して、「企業が実際に雇いたい労働需要量(N_D)」が不足する超過供給が発生します。
実際の雇用量は需要側(少ない方)であるN_Dで決まるため、労働市場には「N_S ー N_D」の差額分の失業者が溢れることになります。
これが、働く意思があるにもかかわらず需要不足によって発生する「非自発的失業」のメカニズムです。
労働曲線のシフト(一般物価水準の変化と労働需要)
ケインジアンの立場でこの非自発的失業を解消するには、政府が裁量的な財政政策(公共投資など)を行って経済全体の総需要を増加させる必要があります。
総需要の増加によって一般物価水準(P)が上昇したとします。
名目賃金率はw̄のまま固定(下方硬直)されているため、計算上の実質賃金率(w̄/P)は低下します。
企業の労働需要は「第1公準」に従い実質賃金率の減少関数であるため、実質賃金率の低下(人件費の割安化)を認識した企業は、雇用量を増加させます。
これを名目賃金率(w)を縦軸にとったグラフで見ると、物価Pの上昇によって企業の労働需要曲線が右へシフトしたように描かれます。

結果として、実際の雇用量は増加し、非自発的失業は減少に向かいます。
マネタリストの貨幣錯覚モデル
マネタリストのフリードマンは、ケインズ的な裁量政策(総需要刺激策)は
「短期的には雇用を増やすが、長期的には無効になる」
と主張しました。
このメカニズムを説明する鍵が「貨幣錯覚」です。
貨幣錯覚とは、名目値(見た目の金額)の上昇を、実質値(購買力)の上昇と勘違いしてしまう現象です。
1. 短期的な効果(錯覚による雇用の増加)
政府の拡張的な経済政策によって物価水準(P)が上昇したとします。
企業は物価上昇を即座に正しく認識するため、実質賃金率(w/P)が低下したと判断し、労働需要を増やします(労働需要曲線上の移動)。
一方、家計(労働者)は物価の上昇を即座には認識できず、自分の受け取る名目賃金率(w)が上がったことだけを見て「実質賃金率が上昇した」と錯覚します。
この錯覚により、家計は労働供給を増加させ、労働供給曲線が右へシフトします。

結果として、短期的には労働市場の均衡点が右下へ移動し、雇用量は完全雇用の水準を超えて増加します。
2. 長期的な効果(錯覚の解消と完全雇用への回帰)
しかし、時間が経過すると労働者も日々の買い物などを通じて物価の上昇(インフレ)に気づきます。
貨幣錯覚が解けると、労働者は「実質賃金は上がっていないどころか、むしろ目減りしている」ことに気づき、労働供給を元の水準に引き戻します(労働供給曲線の左シフト・元の位置へのシフトバック)。
同時に、労働者は実質賃金の低下を補うためにさらなる名目賃金の引き上げを要求するため、最終的に雇用量は元の「完全雇用水準(自然失業率の水準)」に戻ってしまいます。

結果として、裁量的な政策は長期的には雇用を全く増やさず、ただ物価上昇(インフレ)だけを引き起こす無効なものになると主張しました。
UVアプローチ

UVアプローチは、労働市場における
- 「欠員率(V:Vacancy rate、未充足求人率)」
- 「失業率(U:Unemployment rate)」
の関係性をグラフ化し、失業の性質を分解して分析する手法です。
この2つの変数には負の相関(一方が増えれば他方が減る関係)があり、これを描いた右下がりの曲線を「UV曲線(ベヴァリッジ曲線)」と呼びます。
このアプローチの最大の目的は、現実の失業率を「需要不足失業(景気循環によるもの)」と「構造的・摩擦的失業(ミスマッチによるもの)」に明確に切り分けることです。
1. 構造的・摩擦的失業(ミスマッチ)の特定

グラフ上で、原点から伸びる45度線(U = V)とUV曲線が交わる点に注目します。
この交点では「失業者数」と「企業の空きポスト(欠員)数」が完全に一致しています。
つまり、マクロ全体での労働需要は足りているのに、スキルや希望条件の不一致(ミスマッチ)だけで失業が発生している状態を意味します。
この交点に対応する失業率が「構造的失業率」となります。
2. UV曲線上での移動(需要不足失業の変化)

景気が悪化して有効需要が不足すると、企業は求人を減らし、失業者が増えるため、UV曲線上を「右下方向(Vが減少、Uが増加)」へ移動します。
逆に好況になれば「左上方向」へ移動します。
この曲線上でのシフトが、ケインズのいう需要不足失業(非自発的失業)の増減を表しています。
3. UV曲線自体のシフト(ミスマッチの深刻化)

産業構造の急激な変化(例:IT化により単純労働が不要になり、高度なエンジニアばかりが求められるようになる等)や、労働市場の硬直化が進むと、求人と求職者の条件がより一層合わなくなります。
この場合、同じ欠員率であっても失業率が高くなるため、UV曲線そのものが右上へシフトします。
これにより、景気対策(需要喚起)だけでは解決できない構造的な問題の悪化を視覚的に捉えることができます。
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