- 国際収支決定理論
- Jカーブ効果
- マーシャル=ラーナー条件:ε + ε* > 1
- 絶対購買力平価説
- 相対購買力平価説
- 金利平価説
- バラッサ=サムエルソン効果
国際収支理論
国際収支決定理論
国際収支(主に貿易収支)がどのように決定されるか、あるいはどうすれば改善されるのかを説明するため、マクロ経済学には主に5つの代表的なアプローチが存在します。
① ISバランス論

ISバランス論とは、マクロ経済の需給の一致から導き出される数式です。
貿易収支の大きさは、国内の「貯蓄・投資バランス」と「政府部門の収支」によって決まると考えます。
② アブソープション・アプローチ

アブソープション・アプローチとは、国内の総需要(消費+投資+政府支出)を「アブソープション(内需)」と定義し、国内の総生産量Yから内需を差し引いた余りが貿易収支になると考える理論です。
内需が大きすぎると貿易赤字になり、小さければ貿易黒字になります。
③ 弾力性アプローチ
弾力性アプローチとは、「為替レートの変動」が貿易収支に与える影響に注目したアプローチです。
円安(為替レートの上昇)になれば自動的に貿易収支が改善するわけではなく、輸出入の数量が価格の変化に対してどれくらい敏感に反応するか(価格弾力性)が重要だと考えます。
この理論から、為替レートによる国際収支の自動調整メカニズムが働くための条件として、後述する「マーシャル=ラーナー条件」が導き出されます。
④ マネタリー・アプローチ

マネタリー・アプローチとは、国際収支を「実体経済(モノの動き)」ではなく「貨幣(お金)の側面」から捉えるアプローチです。
国内で必要とされる貨幣量(貨幣需要)に対して、中央銀行が供給する貨幣量(貨幣供給)が不足している場合、その不足分を海外から調達しようとするため、国際収支の黒字(資金の流入)として現れると考えます。
⑤ アセット・アプローチ
アセット・アプローチとは、マネタリー・アプローチをさらに拡張した考え方です。
貨幣(お金)だけでなく、株式や債券などの「資産(アセット)」の取引も含めて、資産市場全体のバランス(過不足)が国際収支の額を決定づけるとする理論です。
資本収支の動きを説明する上で重要な土台となります。
Jカーブ効果
為替レートが円安になったとき、通常であれば「輸出が増えて国際収支(貿易収支)が改善する」と考えられますが、現実には
「短期的にはかえって貿易赤字が拡大し、長期的になってからようやく黒字が拡大する」
という現象が起こります。

グラフの軌跡がアルファベットの「J」に似ていることから、Jカーブ効果と呼ばれます。
でも、なぜ最初にかえって赤字になるのでしょうか?
実際の貿易取引では、契約から代金の決済、実際の商品の受け渡しまでに数ヶ月のタイムラグがあります(これを数量の調整ラグと呼びます)。
円安になると、輸入するモノの価格は「その瞬間」に跳ね上がりますが、契約済みの輸出入の「数量」は急には変更できません。
その結果、短期的には
「輸出量は増えないのに、輸入にかかる代金だけが為替の影響で高くなってしまう」
ため、一時的に貿易赤字が拡大してしまいます。
時間が経ち、価格に合わせて輸出入の数量が変化し始めると、ようやく円安の恩恵を受けて黒字へと向かいます。
なお、長期的になって円安が貿易収支を改善させるためには、人々の需要が価格変化にしっかりと反応することを示す
マーシャル=ラーナー条件(輸出の価格弾力性と輸入の価格弾力性の和が1より大きいこと:ε + ε* > 1)
を満たしている必要があります。

為替レート決定理論
購買力平価説
購買力平価説とは、主に長期的な為替レートがどのように決まるかを説明する理論です。
「同じ商品は世界中どこでも同じ価格になるはずだ(一物一価の法則)」という前提に基づき、両国の物価水準の比率によって為替レートが決まると考えます。
なぜ物価で為替が決まるのでしょうか?
例えば、日本で100円のハンバーガーが、アメリカで1ドルで売られているとします。
このとき、ハンバーガーの価値を基準にすれば「1ドル=100円」になるのが妥当ですよね。
もし日本がインフレになりハンバーガーが200円に値上がりした場合、1ドルで買えるハンバーガーと等価にするためには「1ドル=200円(円安)」に為替レートが調整されなければなりません。
このように、
- 絶対的な物価水準で決まるとするもの:「絶対購買力平価説(e = P/P*)」(Pは物価水準、P*は外国の物価水準)
- 物価の変化率(インフレ率の差)で決まるとするもの:「相対購買力平価説(Δe/e = ΔP/P ー ΔP*/P*)」
と呼びます。


金利平価説
金利平価説とは、主に短期的な為替レートの変動を説明する理論です。
自国の資産(投資)と外国の資産が代替的であると仮定します。
このとき、投資家がより高い利益を求めて資金を移動させる「裁定取引」によって、最終的に「外国利子率r*」は「国内利子率rにリスク・プレミアムρを上乗せしたもの」に等しくなると考えます。
もし現時点で両者の利回りに差(乖離)がある場合、その差をピッタリ埋めるように「為替レートの期待変化率(Δe/e)」が調整されて均衡に向かうとするのが、金利平価説の考え方です。
これを式で表すと以下のようになります。

(※ e:為替レート、r:国内利子率、ρ:リスク・プレミアム、r*:外国利子率)
なぜ為替レートが調整されるのでしょうか?
例えば、自国(日本)の利子率が高く、数式の右辺「(r + ρ) ー r*」がプラスの値になるとします。
これは、一見すると日本で投資した方が得な状態ですが、裁定取引によって世界中のお金が日本に流れ込むため、現在の為替市場では円が買われて「円高(自国通貨の増価)」になります。
現在の円が高くなるということは、将来的に見れば「元の水準に向けて円安になっていく(為替レートeが上昇、つまり減価する)」ことを意味します。
つまり、金利が高い国の通貨は、その金利差の分だけ将来的に減価(下落)することが見込まれるため、投資家から見れば「金利でもらえる利益」と「為替の変動による損」が相殺されます。
結果として、どの国に投資しても同じ収益率になるように為替レートが自動的に調整されることになります。
バラッサ=サムエルソン効果
バラッサ=サムエルソン効果とは、経済が成長している国において、長期的に実質為替レートが増価(自国通貨高)していくメカニズムを説明した理論です。
経済が成長する国では、製造業など世界と競争する「貿易財部門」の技術や生産性が大きく向上します。
生産性が上がると、その部門で働く人々の賃金が上昇します。
すると、労働力を確保するために、生産性がそれほど上がっていない「非貿易財部門(サービス業や理髪店など)」でも賃金を引き上げざるを得なくなります。
サービス業の賃金が上がれば、当然サービスの価格(散髪代など)も値上げされるため、国全体の物価水準が底上げされます。
このように、
「貿易財部門の高い生産性が国内全体の物価上昇を引き起こし、結果として実質為替レートの増価をもたらす現象」
をバラッサ=サムエルソン効果と呼びます。
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