- ハロッド=ドーマー型経済成長理論
- 投資の二重性
- レオンチェフ型生産関数
- 現実成長率(G)
- 保証成長率(G_w)
- 自然成長率(G_n)
- 安定成長条件
- ナイフ・エッジ原理(不安定性原理)
ハロッド=ドーマー型経済成長理論
ハロッド=ドーマー型経済成長理論とは
「ハロッド=ドーマー型モデル」は、ケインズ経済学の流れを汲む初期の代表的な経済成長理論です。
このモデルは、
「どうすれば国全体に失業者が溢れたり、工場の機械が遊んでしまったりすることなく、経済が安定して成長し続けられるのか?」
という条件を数学的に解明しようとした理論です。
ここで鍵となるのが「投資の二重性」という考え方です。
企業が工場を建てるなどの「投資」を行うと、その時点ではモノが売れて国民所得が増えるという「需要増加」の側面(乗数効果)を持ちます。
そして、同時に「完成した工場は翌年以降の生産能力(資本)を拡大させる」という「供給増加」の側面も持っているのです。
ハロッド=ドーマー型モデルは、この投資によって増えた「生産能力(資本)」と、社会に存在する「労働力」の双方が、全く無駄なく完全に利用され続けるための「安定成長条件」を導き出します。
レオンチェフ型生産関数
ハロッド=ドーマー型経済成長理論の最大の特徴は、
モノを作るために必要な「資本(機械など)」と「労働(人)」を、お互いに代替できないものとして扱う
点にあります。
たとえば、工場に機械が十分に余っていても、それを操作する人が足りなければ生産量は増えませんし、その逆も同じです。


min{ 、 }
とは、「カッコの中の小さい方の値を選ぶ」という意味です。
つまり、ここではαK(資本)とβN(労働)の小さい方が選ばれるので、値の大きい方の生産要素を増加させても生産量Yは増えません。
この式からも、資本と労働は互いに他の生産要素を代替できないことがわかります。(=代替弾力性が0)
このように、資本と労働が一定の割合でしか投入できず、互いに代わりになれない技術を「レオンチェフ型生産関数」と呼び、グラフ上ではL字型の等量曲線として表されます。

最適な生産は、このグラフの等量曲線の屈折点のようにどちらの生産要素も最低限で済みます。
つまり、最適な生産は
- Y=αK
- Y=βN
が満たされる場合であり、係数であるα、βは
- α=Y/K
- β=Y/N
とすれば、それぞれ資本1単位あたりと労働1単位あたりの平均生産性を表すことになります。
例えば、資本について平均生産性の逆数をとって「1/α=v」とすると
v=K/Y
のように、資本の投入係数が表されることになります。
また、先ほどのグラフのように、特定の生産量Y=Y_0を達成するのに必要な資本はK_0だけでよく、それ以上は必要ありません。(=資本係数は「Y_0/K_0」で十分)
3つの「経済成長率」とモデルの基本公式
ハロッド=ドーマー型モデルでは、経済がどのように成長していくかを論理的に説明するために、以下の3つの成長率を定義し、それらの関係性を分析します。
① 現実成長率(G)
現実成長率とは、現実の経済において、国民所得Yが実際にどれだけ変化したかΔYを示す、実際の成長率です。

② 保証成長率(G_w)
保証成長率とは、企業が保有する「資本(設備)」が、過不足なく完全に利用されている場合の理想的な成長率です。
資本の増加分がすべて経済成長に貢献するとして、
G_w=ΔK/K=ΔY/Y
と定義されます。
そして、先ほど述べた「投資の二重性」により、投資Iは新たな資本ΔKを生み出すと同時に、財市場の均衡においては貯蓄Sと等しくなります(I = S)。

このとき、資本の増加分ΔKは資本減耗を考えなければ投資Iと等しくなるので、
「I=ΔK」
となります。
貯蓄は国民所得に貯蓄率sを掛けたもの(S = sY)であり、資本の必要量を示す資本投入係数vを用いると、保証成長率は以下の公式で導き出されます。


このように、資本が完全稼働する保証成長率G_wは、家計の「貯蓄率s」と企業の「資本投入係数v」という2つの定数の比で決まることになります。
また、貯蓄率sと資本投入係数vは定数なので、保証成長率は一定になります。
③ 自然成長率(G_n)
自然成長率とは、社会にいる「労働力」が完全に利用された(完全雇用)場合の成長率です。

労働力の増加分がすべて成長に寄与した場合、その成長率は外生的に与えられる労働人口増加率nと等しくなります。
G_n = n
このときの安定成長条件(G_w=G_n)は

になります。
また、
- A:労働生産性
- L:単純労働量
- AL:労働生産性を考慮した労働量(効率労働)
としたときに、レオンチェフ生産関数を効率労働単位で表すと
Y=min{αK、β(AL)}
になります。
そして、最適労働投入「Y=βAL」が達成されている場合の変化分は
ΔY/Y=ΔA/A+ΔL/L
となり、効率労働単位で割った自然成長率は

になります。(λ:労働生産性上昇率または技術進歩率)
この式と、先ほどの「G_w = s/v」をもとに、以下のような安定成長条件が導かれます。

ナイフ・エッジ原理
経済が理想的かつ安定的に成長するためには、資本も労働も完全に利用される
「保証成長率G_w=自然成長率G_n」
という状態(安定成長条件)が達成される必要があります。
しかし、ハロッド=ドーマー型モデルにおいて、この2つが一致することは単なる偶然に過ぎません。
なぜなら、保証成長率を決める貯蓄率sや資本投入係数vは家計や企業の技術で決まる定数であり、自然成長率を決める人口増加率nとは全く独立して決まるからです。
さらに問題なのが、偶然バランスが取れていたとしても、現実の成長率Gが保証成長率G_wからわずかでもズレると、その乖離はどんどん広がってしまうという性質です。
現実の成長率が保証成長率を上回る場合(G > G_w)
現実の成長率が高い状態は、数式で表すと以下のようになります。

分母に注目すると、現実の資本係数(K/Y)が望ましい水準 (K/Y)*を下回っている状態であることがわかります。
これは、国民所得(生産量)に対して資本(設備)が足りていない「資本不足」を意味します。
資本が不足していると感じた企業は、生産能力を補うために投資を増やします。
しかし、投資の増加は「乗数効果」によって、投資した額以上に国民所得をさらに増加させてしまうため、現実の経済成長率Gは一層高まってしまいます。
結果として、理想的な保証成長率G_wから上へ上へと際限なく遠ざかっていくことになります。

現実の成長率が保証成長率を下回る場合(G < G_w)
反対に、現実の成長率が低い状態は、以下の数式で表されます。

これは、現実の資本係数(K/Y)が望ましい水準(K/Y)*を上回っている状態、すなわち「資本過剰」を意味します。
設備が余っていると感じた企業は、当然ながら新たな投資を減らします。
すると、今度はマイナスの乗数効果が働き、投資の減少以上に国民所得が大きく落ち込みます。
その結果、現実の経済成長率Gはさらに低下し、保証成長率G_wから下へ下へと果てしなく落ち込んでいくことになります。

このように、自律的に安定成長へ戻ることができないモデルの不安定性を「ナイフ・エッジ原理(不安定性原理)」と呼びます。

拡張されたハロッド=ドーマー型経済成長モデルの安定成長条件
基本的なハロッド=ドーマー型モデルは非常にシンプルですが、現実の経済状況に近づけるために「技術進歩」「資本の減価償却」「政府部門(税金)」を導入してモデルを拡張させることができます。
それぞれの要素を加えると、成長率の計算式は以下のように変化します。
・技術進歩の導入
技術進歩率をλとすると、実質的な労働力の伸びが高まるため、自然成長率は「G_n = n + λ」となります。
・減価償却と政府部門(税金)の導入
資本の減耗率をδ、所得税率をtとします。家計の貯蓄は税引き後の可処分所得から行われるため、貯蓄関数は「S = sY_d =(1ーt)Y」となります。
また、資本減耗率をδとした場合の資本の増加分は「ΔK=IーδK」になります。
投資から減価償却分を差し引く必要があるため、保証成長率はG_w = s(1ーt)/v ー δと修正されます。
これらを統合した「拡張された安定成長条件(G_w = G_n)」の公式は以下のようになります。

この式は、税率を考慮した実質的な貯蓄から資本減耗分を差し引いたものが、人口増加と技術進歩の合計と等しくなる状態が理想的であることを示しています。
ただし、このように現実的な要素を取り入れて拡張したとしても、各式を構成する変数がそれぞれ独立して決まる定数であることに変わりません。
そのため、偶然の一致と「ナイフ・エッジ原理」による不安定性は依然として解消されません。
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