- AD曲線
- AS曲線
- 流動性のわな
- ピグー効果
- フィッシャー効果
- サプライサイド学派
- 新古典派総合
- スタグフレーション
AD曲線(総需要曲線)
IS-LM分析は、「一般物価水準Pが一定であることを前提とした短期分析」でした。
これに対して、物価水準の変化を分析に取り入れ、インフレやデフレといった長期的な問題を扱うのがAD-AS(総需要・総供給)分析です。
まずはAD曲線から見ていきましょう!
AD曲線の導出
AD曲線は、IS-LM分析における「物価の変化」から導出されます。

いま、一般物価水準がP_0からP_1へと下落したとします(P_0 > P_1)。
名目マネーサプライMが一定であれば、物価の下落(P↓)によって実質マネーサプライM/Pが増加します。
これはマネーサプライMを増加させるなどの金融緩和を行った場合と全く同じ効果をもたらすので、LM曲線は右へシフトします。
その結果、IS曲線とLM曲線の交点である均衡国民所得は、Y_0からY_1へと増加します。
このように、物価水準Pの変動と、それに対応する均衡国民所得Yの組み合わせを縦軸・横軸の平面にプロットして結んだものがAD曲線(総需要曲線)になります。

AD曲線の特徴
AD曲線の形状

AD-AS分析では縦軸に物価Pを、横軸に国民所得Yをとります。
そして、先ほどの解説の通り、物価Pが下落すると国民所得Yが増加する関係を表すのがAD曲線でした。
つまり、AD曲線は物価が下がるほど国民所得が増える「右下がり」の形状をとります。
AD曲線のシフト要因

- 拡張的な財政政策(政府支出の増加や減税など)
- 緩和的な金融政策(名目マネーサプライの増加)
が行われると、それぞれの物価水準において国民所得が増加します。
そのため、AD曲線自体が「右へシフト」します。
- 拡張的な財政政策(政府支出の増加や減税など)
- 緩和的な金融政策(名目マネーサプライの増加)
反対に、引き締め方向の財政政策や金融政策は国民所得が減少するので、AD曲線が「左へシフト」します。
AD曲線の特殊なケース

- 貨幣需要の利子弾力性が無限大となる「流動性のわな」の状況
- 投資の利子弾力性がゼロ(IS曲線が垂直)の状況
では、物価が下落してLM曲線が右シフトしても、均衡国民所得Yは増加しません。
したがって、この場合のAD曲線は「垂直」になります。
AS曲線(総供給曲線)
AS曲線
総供給(AS)曲線は、マクロ経済の「労働市場の均衡」と「マクロ生産関数」から導き出されます。
ケインジアンの労働市場理論に基づくと、以下のようなメカニズムでAS曲線は右上がりとなります。
- 物価の上昇と実質賃金の低下: 一般物価水準Pが上昇すると、計算上の実質賃金率w/Pは低下する。
- 労働需要の増加: 実質賃金率が低下するので、労働の投入量(雇用量N)が増加。(古典派の第一公準により、労働需要は実質賃金率の減少関数)
- 生産量の増大: 増加した雇用量Nをマクロ生産関数「Y = f(N)」(コブ=ダグラス型生産関数など)に代入すると、総生産量(国民所得Y)も増加。
このように、「物価Pの上昇」は労働市場を通じて「生産量Yの増大」をもたらします。

つまり、縦軸に物価P、横軸に国民所得YをとるケインジアンのAS曲線は右上がりになります。
AS曲線の特徴
AS曲線のシフト要因

- 名目賃金率wの低下によるコスト・ダウン
- 技術の進歩
のように、生産関数自体が上方にシフトするような「生産性の改善」が起きると、同じ物価水準でもより多くの生産が可能になります。
その結果、AS曲線は右へシフトします。
反対に、名目賃金率の上昇のように生産量が少なくなる場合は左へシフトします。
AS曲線の傾きの決定要因

AS曲線は、物価や賃金率があまり変化しないほど傾きは緩やかになり、反対に柔軟に変化するほど傾きは急になります。
- 物価や賃金率があまり変化しない(硬直的)→緩やか
- 物価や賃金率が柔軟に変化する→急
古典派のAS曲線

古典派の労働市場観では、価格メカニズムが完全に機能し、名目賃金率も物価も極めて柔軟に変動します。
物価Pが上昇しても、それと同率で瞬時に名目賃金率wも上昇するため、実質賃金率w/Pは常に一定の均衡水準に保たれます。
実質賃金率が変わらなければ、企業の労働需要量も変化しません。
その結果、労働市場は常に非自発的失業の存在しない「完全雇用」の状態を維持します。
このように、物価水準がどう変化しようとも生産量は完全雇用国民所得Y_fから変化しないため、古典派のAS曲線は完全雇用国民所得水準で常に「垂直」になります。
AD-AS曲線
ケインジアン的分析
AD曲線の右シフト

AD曲線とAS曲線の交点において、マクロ経済の均衡国民所得と均衡一般物価水準が決定されます。
ケインジアンの想定する経済(不完全雇用の状態)において、政府が拡張的な財政政策や緩和的な金融政策を行うと、AD曲線が右シフトします。

拡張的な財政政策や緩和的な金融政策のように、需要曲線を移動させる政策を総需要管理政策といいます。
総需要管理政策は「国民所得(総生産量)の増大」と「物価水準の上昇」をもたらします。

このように、財政政策・金融政策によってAD曲線を右へシフトさせる総需要管理政策は、物価の上昇(インフレ)と総生産量(国民所得)の増加をもたらすことになります。
初期ケインジアンのケース

流動性のわな、または投資の利子弾力性がゼロの状況では、AD曲線は垂直になります(初期ケインジアンケース)。
この場合、緩和的な金融政策を行ってLM曲線を右へシフトさせても国民所得Yは増加しないので、AD曲線は右へシフトしません。

- 緩和的な金融政策:LM曲線を右へシフトさせる
- 拡張的な財政政策:IS曲線を右へシフトさせる
でしたよね。忘れた方は第19回の講義を確認してみてください!

そのため、金融政策は「無効」となります。
一方で、拡張的な財政政策はIS曲線を右へシフトさせるので、IS-LM曲線上で国民所得Yが増加します。

つまり、財政政策を行うと垂直なAD曲線自体を右へシフトさせるので、国民所得と物価をともに上昇させます。
このように、初期ケインジアンのケースでは、財政政策のみが有効となります。
AS曲線が水平のケース

価格や物価水準があまり変化しない(つまり硬直的である)ほど、AS曲線の傾きは緩やかでしたよね。
ただ、不完全競争下でのマークアップ価格設定など、何らかの理由で一般物価水準が極めて硬直的である場合、AS曲線は「水平」になります。
この極端なケースでは、総需要拡大政策(AD曲線の右シフト)を行っても物価は一切上昇せず、生産量(国民所得)の増大のみをもたらすことができます。

また、物価の硬直性を仮定すると、インフレは労働市場において完全雇用が達成されてから起こるとされています。
ケインズは、国民所得が完全雇用水準に達した後に初めて起こるインフレを「真性インフレ」と呼びました。
ピグー効果
流動性のわななど、AD曲線が垂直になるケースでは、物価が下落しても国民所得は増えませんでしたよね。
しかし、「ピグー効果(実質資産残高効果)」が働けば、AD曲線は通常の右下がりを取り戻します。

ピグー効果:
「物価下落によって家計が保有する貨幣などの実質資産(価値)が増加し、それが消費を刺激して有効需要を増大させる効果」
簡単に解説すると、
「不況になる」
→「物価が下がる(=通貨価値は上がる)」
→「消費が刺激される」
→「国民所得が増加」
というメカニズムになります。

この消費増大によって、LM曲線だけでなくIS曲線も右へシフトすることになります。
つまり、ピグー効果のもとでは、物価下落時に国民所得が増加するので、AD曲線は右下がりになります。

フィッシャー効果
名目金利と実質金利の間には
「名目利子率 = 実質利子率 + (期待)インフレ率」
というフィッシャー方程式が成り立ちます。
中央銀行が金融緩和を行うと、短期的には貨幣市場を通じて名目利子率が低下します。
しかし長期的には、インフレが発生することで貸し手がインフレによる実質的な収益目減りを避けるため、名目利子率を引き上げます。
このように、
「金融緩和が最終的にインフレを招き、名目利子率を上昇させてしまう」
ことをフィッシャー効果と呼びます。
古典派的分析
古典派のケース

典型的な古典派の立場では、AS曲線は完全雇用国民所得水準で垂直になります。
この状態でケインジアン的な総需要管理政策(AD曲線の右シフト)を行っても、物価が上昇するだけで国民所得は変化しません。
つまり、古典派のケースでは、AD曲線を右へシフトさせる政策は無効であるとされます。
サプライサイド学派
- ケインズ:総需要管理政策(AD曲線をシフトさせる)によって、物価と国民所得が上昇
- 古典派:AS曲線が垂直になるので、総需要管理政策は無効
ケインズと古典派によるAS-AD分析にはこのような違いがありました。
ここで、ケインジアンの需要管理政策がインフレを招くだけだと批判し、供給側(AS曲線)の改善を主張したのがサプライサイド学派です。

実際、ケインジアン的有効需要管理政策は1960年代には効果的だったものの、1970年代にスタグフレーションが発生するなど有効性を失いました。
サプライサイド学派は、
- 規制緩和による競争促進
- 労働生産性を高める政策
- 法人税や所得税の大幅な減税
などを通じて企業のコストを削減し、AS曲線を右シフトさせるべきだと主張しました。

AS曲線の右シフトは、国民所得の増加と物価の低下(インフレ抑制)を同時に達成できる理想的な政策効果を持ちます。
新古典派総合

アメリカの経済学者でケインジアンであるサムエルソンは、短期と長期でケインジアン理論と古典派理論を使い分ける「新古典派総合」という立場をとりました。
不完全雇用の状態にある短期的には、ケインズ理論を適用して右上がりのAS曲線を想定し、裁量的な政策で総需要を刺激して完全雇用を目指します。
そして、国民所得が完全雇用水準に達した長期においては、古典派理論を適用してAS曲線が垂直になると考え、市場メカニズムに委ねるべきだと提唱しました。
この理論は根本的に異なる2つの理論を結びつけているため批判も多く、支持者はいたもののサムエルソン自身は後にこの考えを撤回しました。
物価の変化
インフレーション
インフレーション(インフレ)とは、継続的に一般物価水準が上昇していく現象であり、その発生要因から主に以下の2種類に分類されます。
ディマンドプル・インフレ

総需要(AD)の増加によって引き起こされるインフレです。
好況時に消費や投資が活発になることで発生し、物価Pの上昇と国民所得Yの増加が起こります。
コストプッシュ・インフレ

生産者側の費用(コスト)の増加によって発生するインフレです。
賃金率の急激な引き上げや原材料価格の高騰などが原因となり、AS曲線が左へシフトすることで物価が上昇し、国民所得Yが減少します。
スタグフレーション

不況とインフレが同時に進行する状態をスタグフレーションといいます。
コストプッシュ・インフレと同様AS曲線が左へシフトするので、物価が上昇する一方で国民所得Yが減少してしまいます。
本格的な試験対策・資格取得を目指す方へ
経済学(ミクロ・マクロ)は、公務員試験や中小企業診断士試験などの資格試験において、合否を分ける非常に重要な科目です。
当サイトでの基礎学習に加えて、過去問演習やプロによる体系的なカリキュラムを取り入れることで、合格がグッと近づきます。
独学に限界を感じている方や、最短ルートでの合格を目指す方は、試験対策として実績の高い「伊藤塾」をぜひ活用してみてはいかがでしょうか!


