- 貨幣数量説
- 貨幣の中立性
- フィッシャーの交換方程式(数量方程式)
- 貨幣の所得速度(所得流通速度)
- ケンブリッジの残高方程式
- マーシャルのk
- 古典派の利子率決定理論
- 実物利子論
古典派の貨幣市場観
第12回のマネーサプライの解説では、
ケインズによると、貨幣には「価値尺度」「支払手段」「価値保存」の3つの機能があります。
と紹介しました。
一方で、古典派の経済学では、貨幣(お金)に対して「取引手段(買い物のための道具)」としての機能しか認めていません。
古典派にとって、貨幣とはモノの取引をスムーズにするための単なる道具であり、財市場(実体経済)の上にかぶせられた「ベール(覆い)」に過ぎないと考えます。(「貨幣ベール観」)
そのため古典派の理論では、まず財市場の均衡(生産量や国民所得)が先に決まり、その後に「その取引を行うために必要な分だけ」の貨幣が需要されます。
つまり、世の中のお金の量(貨幣供給量)をいくら増やしても、モノの値段(物価)が上がるだけで、実体経済の生産量には影響を与えません。(すでに生産量が決まってしまっているため)
これを「貨幣数量説」といいます。
このように、古典派の学説では「実体経済(財市場)」と「お金の世界(貨幣市場)」は全く別々に動いており、お互いに独立していると考えます。
これを「古典派の二分法」と呼びます。

古典派の二分法は、財市場は貨幣市場から独立しているという考えでした。
厳格にこの立場に立てば、「貨幣市場における金融政策でどれだけお金を増やしても、財市場で決まる国民所得には一切影響を与えることができない」という結論になります。
これを「貨幣の中立性」といいます。
貨幣数量説
フィッシャーの交換方程式(数量方程式)
古典派の貨幣市場観の典型的な考えとして、「フィッシャーの交換方程式(数量方程式)」があります。

- M(マネーサプライ): 世の中にあるお金の量
- V(流通速度): 1つのお金が、一定期間内に何回人から人へ渡ったか(使われた回数)
- P(物価水準): モノの値段
- T(取引量): 取引されたモノの数
この数式の意味をイメージしやすいように、具体例を用いて解説します。
カブ君は手元に1万円持っています。

カブ君は、この1万円を使ってゲーム屋さんでゲームを購入しました。(1万円はカブ君→ゲーム屋さんへ移動)

次に、ゲーム屋さんは受け取った1万円を使ってレストランに行き、1万円分食事をしました。(1万円はゲーム屋さん→レストランへ移動)

そして、レストランは受け取った1万円を使って新しい食器を購入しました。(1万円はレストラン→食器屋さんへ移動)
このとき、1枚の1万円札が3回使い回された(V=3)ので、今回動いたお金の総額は
「1万円 × 3回 = 3万円(MV)」
になります。
そして当然ですが、このとき同時に「ゲーム・ご飯・食器」という「3万円分のモノ(PT)」が取引されていますよね。
つまり、フィッシャーの交換方程式は
「世の中で動いたお金の総額(MV)と、取引されたモノの総額(PT)は必ずイコールになる」
ことを意味しています。
また、右辺の「P(値段)× T(量)」は、世の中で取引されたモノの総額、つまり「名目国民所得」と同じものだと考えます。
先ほどの数式(MV = PT)を変形すると、以下のようになります。

この式は、
「国民所得(PT)を生み出すために、世の中のお金(M)が何回転したか」
を計算していることになります。
そのため、このVは貨幣の所得速度または所得流通速度と呼ばれることがあります。
ケンブリッジの残高方程式
ケンブリッジ大学のマーシャルは、フィッシャーとは独立に貨幣需要が国民所得に依存することを、以下の残高方程式で表しました。

- M(マネーサプライ): 世の中にあるお金の量
- k(マーシャルのk): 定数
- P(物価水準): モノの値段
- Y(実質国民所得): 実質国民所得
これは、
一般物価水準Pと実質国民所得Yを掛け合わせた名目所得PYの一定割合(kの割合)がマネーサプライMに等しい
という式であり、所得の一定割合が取引のために貨幣の形で保有されることを示しています。
2つの方程式の関係
フィッシャーの交換方程式(数量方程式)とケンブリッジの残高方程式の式は、どちらも取引動機のみ(古典派)によって貨幣市場が均衡するというものでした。
フィッシャーの交換方程式を変形すると、

になり、左辺M/Pは実質マネーサプライを表します。

「M/P=1/V×T」の右辺は、
- V:フィッシャーは流通速度Vを一定とみなしている
- T:数量は財市場で決まる
となっているので、マネーサプライMが大きくなると、その分物価が上昇することになります。
つまり、古典派の貨幣数量説では、貨幣市場において物価が決定されることになります。
同様に、ケンブリッジの残高方程式を変形すると、

になり、左辺がM/P(実質マネーサプライ)になります。
この2つの式を=で結ぶと

になります。
ここで、「フィッシャーの取引量T」と「残高方程式の実質所得Y」を近似とみなすと

になり、マーシャルのkは「貨幣流通速度Vの逆数」であることがわかります。

フィッシャーの取引量Tと残高方程式の実質所得Yは別物で本来イコールになりませんが、
- 「取引量が多い→経済が回る→実質所得が大きくなる」のように、両者は比例して動く
- 説明のための単純化
このような理由もあって、貨幣数量説の解説ではT=Yとなっています。
また、これまで解説した式の中には利子率rが登場していません。
つまり、古典派の理論では利子率は貨幣市場では決定されず、貨幣需要の利子率に対する弾力性はゼロになります。
古典派の利子率決定理論
古典派において、利子率は「投資I=貯蓄S」を満たすように財市場で決定されます。
このように、実物(モノ)の市場でのバランスから利子率が決まるという考え方を「実物利子論」といいます。(この実物利子論の代表的な説にD.ロバートソンの貸付資金説があります。)
- 投資・・・利子率の減少関数(金利が下がると、企業は借金をして設備投資をしやすくなるため)
- 貯蓄・・・利子率の増加関数(金利が上がると、人々は消費を控えてたくさん預金したくなるため)
であるとすると、図のように利子率が決定されます。

グラフの交点のように、投資と貯蓄が均衡するように決定される利子率のことを「自然利子率」といいます。
ただ、古典派の理論(古典派の二分法)では、お金の量(貨幣量)は物価を動かすだけで、実体経済には影響を与えませんでしたよね。
したがって、実体経済(財市場)だけで決定される自然利子率は、世の中のお金の量や物価の変動には一切影響を受けない「実質利子率」であるとされています。
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